・・・ 手に、ケースを下げて、不案内の狭苦しい町の中へはいりました。道も、屋根も、一面雪におおわれていました。寒い風が、つじに立っている街燈をかすめて、どこからか、枯れたささの葉の鳴る音などが耳にはいりました。 どちらへ曲がったらいいかわ・・・ 小川未明 「青い星の国へ」
・・・それには羊皮の帽子をかむり、弾丸のケースをさした帯皮を両肩からはすかいに十文字にかけた男が乗っていた。 騎馬の男は、靄に包まれて、はっきりその顔形が見分けられなかった。けれども、プラトオクに頭をくるんだ牛を追う女は、馬が自分の傍を通りぬ・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・bination of administrative ability with scientific talent, which is, as it seems, rather rarely the case at least in thi・・・ 寺田寅彦 「PROFESSOR TAKEMATU OKADA」
・・・ オツベルはいつかどこかで、こんな文句をきいたようだと思いながら、ケースを帯からつめかえた。そのうち、象の片脚が、塀からこっちへはみ出した。それからも一つはみ出した。五匹の象が一ぺんに、塀からどっと落ちて来た。オツベルはケースを握ったま・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・みんなはたばこをくわえてマッチをすったり楽器をケースへ入れたりしました。 ホールはまだぱちぱち手が鳴っています。それどころではなくいよいよそれが高くなって何だかこわいような手がつけられないような音になりました。大きな白いリボンを胸につけ・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・ 大人が多勢ガヤガヤしていて傍へもよりつけないので、私は、父が肩へかけて呉れた茶皮のケース入りの写真機を枕にして横浜からの汽車の中で眠ってしまった。それはコダックの手札形であった。 弟が十八九の頃、写真にこった。家族のものや静物をそ・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・のぼらなければ林町の通りへ来られなかった。 藍染川と団子坂との間の右側に、「菊見せんべい」の大きな店があった。ひろい板じきの店さきに、ガラスのついた「せんべい」のケースがずらりと並んでいた。ケースの上に菊の花を刷って、菊見せんべいと、べ・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・これも、実に多いケースの物語であろうと思う。病者の孤独、そこにこもって孤独に耐えようとすることから主我的になってゆく心。孤独は「宿命」であるとして観念的になってゆく存在が、一つの転機をもって、孤独なもの同士のクラブをつくって人間らしさをとり・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・ ポケットから赤い小さいケースに入った仁丹を出して噛みながら云った。「ブルジョア法律は、認定で送れるんだからね、謂わば君が承認するしないは問題じゃないんだ」「そう云うのなら仕方がない」 自分は云うのであった。「事実がない・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 東京駅でスーツ・ケースをうけとってくれたひとが、先ず訊いたのは、あっちでは野菜はどうだった? ということであった。日本葱一本を等分にわけて、お宅には特別にこっちをあげましょうと白い根の方を貰って来たという話もその朝省線の中できいた。・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
出典:青空文庫