・・・いつもニコニコ笑顔を作って僅か二、三回の面識者をさえ百年の友であるかのように遇するから大抵なものはコロリと参って知遇を得たかのように感激する。政治家や実業家には得てこういう人を外らさない共通の如才なさがあるものだが、世事に馴れない青年や先輩・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・現在自分の口から言出して置きながら、人に看透かされたと思うと直ぐコロリと一転下して、一端口外した自家意中の計画をさえも容易に放擲して少しも惜まなかったのはちょっと類の少ない負け嫌いであった。こういう旋毛曲りの「アマノジャク」は始終であって、・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・登勢も名を知っている彦根の城主が大老になった年の秋、西北の空に突然彗星があらわれて、はじめ二三尺の長さのものがいつか空いっぱいに伸びて人魂の化物のようにのたうちまわったかと思うと、地上ではコロリという疫病が流行りだして、お染がとられてしまっ・・・ 織田作之助 「螢」
・・・そして自分のお床にコロリと横になって言いました。 「大丈夫だよ。僕なんかきっと立派にやるよ。玉は僕持って寝るんだからください」 兎のおっかさんは玉を渡しました。ホモイはそれを胸にあててすぐねむってしまいました。 その晩の夢の奇麗・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・そしてたたみの上にコロリと横になってニッコリといかにも嬉しそうに笑って眠に入った。 翌朝になっても男は笑ったまんまねて居たけれ共もうあったか味もない口もきかない小ばなの妙にそげたひやっこい肉のかたまりになって居た。「あの人が一番さきに私・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・コンムーナの連中は、例えばエセーニンの詩にはコロリと参っている。エセーニンの詩集は村にいる本だ。素敵なもんだと「母への手紙」というエセーニンの詩がよまれた時に衆議一決している。だが、果して詩人エセーニンは、このコンムーナの一同が武器を揃えて・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫