・・・彼等が上鉱を掘り出す程、肥って行くのは、自動車を乗りまわしたり、ゴルフに夢中になっているMの一族だ。畜生! せめてもの腹癒せに、鉱石をかくしてやりたかった。 女達は、彼の背後で、ガッタン/\鉱車へ鉱石を放りこんでいた。随分遠くケージから・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・膝が、やっと隠れるくらいで、毛臑が無残に露出している。ゴルフパンツのようである。私は流石に苦笑した。「よせよ。」佐伯は、早速嘲笑した。「なってないじゃないか。」「そうですね。」熊本君も、腕をうしろに組んで、私の姿をつくづく見上げ、見・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・D、低能。ゴルフのカップは、よだれ受け。S、阿呆。学校だけは出ました。U、半死。あの若さで守銭奴とは。O君はよい。男ぶりだけでも。○昼は消えつつものをこそ思う。○水戸黄門、諸国漫遊は、余が一生の念願也。○私は尊敬におびえている。・・・ 太宰治 「古典風」
・・・飛行機の中で煙草を吸えるかしら。ゴルフパンツはいて、葡萄たべながら飛行機に乗っていると、恰好がいいだろうな。葡萄は、あれは、種を出すものなのかしら、種のまま呑みこむものなのかしら。葡萄の正しい食べかたを知りたい。などと、考えていること、まる・・・ 太宰治 「懶惰の歌留多」
・・・ このへんで道をきくと「これをまっすぐに、まっすぐに……」と言われるにきまっているらしい。まっすぐに行かれるように道ができているのである。 ゴルフリンクの入り口でお茶を引いているキァデーの群れがしきりにクラブを振りまわしている。なん・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
ずっと前からM君にゴルフの仲間入りをすすめられ、多少の誘惑は感じているが、今日までのところでは頑強に抵抗して云う事を聞かないでいる。しかしとにかく一度ゴルフ場へお伴をして見学だけさせてもらおうということになって、今年の六月・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・俳句の本、山登りの本、唯物論的弁証法の本、ゴルフの本、なんでも無いものはないように見える。ところが、何かしらある些細な題目についてやや確実詳細な具体的知識を得たいと思って参考書を捜すとなってみると、さて、なかなか容易に自分の要求に適応する本・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・やはり全く遊ぶよりほかに用のない人がステッキ、そうしてステッキだけをかかえていないと板につかないようである。ゴルフのなんとかいうあの棒などもそうである。歴史は繰り返すとすれば今に貴婦人たちやモガたちが等身大のリボン付きのステッキにハンドバッ・・・ 寺田寅彦 「ステッキ」
・・・ ゴルフについては自分自身には少しの体験も持ち合わせないのであるが、T氏の話によるとあれのクラブの使用にもやはり自由なる手首の問題が最も大切だということになっているそうである。 いわゆるスモークボールを飛ばして打者を眩惑する名投手グ・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・日曜日ごとにゴルフとまでは行かないプチブルらしくベビー・ゴルフというものへ、半ズボンはいて行くO氏のお伴をしなければ、不和を生じるという場合、どうしてK子はO氏との恋愛をよろこび、共に発育して行く人間らしい楽しみを感じることが出来ましょう。・・・ 宮本百合子 「ゴルフ・パンツははいていまい」
出典:青空文庫