・・・海の方から吹いてくる風が、松のこずえに当たって、昼も、夜も、ゴーゴーと鳴っています。そして、毎晩のように、そのお宮にあがったろうそくの火影が、ちらちらと揺らめいているのが、遠い海の上から望まれたのであります。 ある夜のことでありました。・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・「さあ、チンチンゴーゴーを見てきましょうね。」と、泣き叫ぶ、赤ちゃんを抱いて立ち上がられました。「お母さん、どこへゆくの?」と、義ちゃんは、もはやご本どころではありません。それよりも、やはりお母さんといっしょに、電車を見にゆきたかっ・・・ 小川未明 「僕は兄さんだ」
・・・また、森には、風が起こって、ゴーゴーと鳴ります。ある山は、赤い火を噴いて、星に警戒します。 めくら星は、高い山の頂につきそうになって、この物音を聞きつけて、さも寒そうに身ぶるいしながら、青い青い夜の空をあてもなく、無事に過ぎてゆきます。・・・ 小川未明 「めくら星」
・・・毎晩ゴーゴーといって鳴り音が聞こえるだろう。僕は海を見ながらハモニカを吹くんだぜ、僕といっしょにゆこう。」と、太郎はくるくるした目をみはりました。「だって帰りがおそくなると、お母さんにしかられるもの。海なんか遠くて、ゆくのはいやだ。・・・ 小川未明 「雪の国と太郎」
・・・てくてく馬道の通りを急いでやって来て、さて聖天下の今戸橋のところまで来ると、四辺は一面の出水で、最早如何することも出来ない、車屋と思ったが、あたりには、人の影もない、橋の上も一尺ばかり水が出て、濁水がゴーゴーという音を立てて、隅田川の方へ流・・・ 小山内薫 「今戸狐」
・・・汽車のゴーゴーという単調な重々しい基音の上に、清らかに澄みきった二つの音の流れがゆるやかな拍子で合ったり離れたり入り乱れて流れて行く。窓の外にはさらに清く澄みきった空の光の下に、武蔵野の秋の色の複雑な旋律とハーモニーが流れて行った。 大・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・「ゴゴン、ゴーゴー、 うすい雲から 酒が降りだす、 酒の中から 霜がながれる。 ゴゴン、ゴーゴー、 ゴゴン、ゴーゴー、 霜がとければ、 つちはまっくろ。 馬はふんごみ、 人もぺちゃぺちゃ。・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・ その夜は空が火事のあかりで、昼間のようでゴーゴーと云う物凄い焔の音がした。 着物をきかえるどころではなく夜は外でたべ、ねむり八日に始めて二階に眠ろうとする。 ミスWは、Mrs. ベルリナに地震のサイコロジーを知りたいからそのつ・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
出典:青空文庫