・・・ そのお徳が、今じゃこんな所で商売をしているんだ。シカゴにいる志村が聞いたら、どんな心もちがするだろう。そう思って、声をかけようとしたが、遠慮した。――お徳の事だ。前には日本橋に居りましたくらいな事は、云っていないものじゃない。 す・・・ 芥川竜之介 「片恋」
・・・るに非常識的のものであるとなせる等である、固より茶の湯の真趣味を寸分だも知らざる社会の臆断である、そうかと思えば世界大博覧会などのある時には、日本の古代美術品と云えば真先に茶器が持出される、巴理博覧会シカゴ博覧会にも皆茶室まで出品されて居る・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・ シカゴ市のある男は七十九秒間に生玉子を四十個まるのみしてレコードを取ったが、さっそく医者のやっかいになったとある。ずっと昔、たしか南米で生玉子の競食で優勝はしたが即死した男があった。今度のレコードは食った量のほかに所要時間を測定してあ・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・ ナイヤガラやシカゴでは別段にこれというチューインガムのエピソードはなかったように記憶するが、これはおそらく、自分の神経がこの脅威に対していくらか麻痺しかけたためであったかもしれない。 これは今から二十年前の昔話である。現在のアメリ・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・それには白い字でシカゴ畜産組合と書いてありました。六人の、髪をまるで逆立てた人たちが、シャツだけになって、顔をまっ赤にして、何か叫びながら鼠色や茶いろのビラを撒いて行きました。その鼠いろのを私は一枚手にとりました。それには赤い字で斯う書いて・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・一九〇三年の九月にシカゴに着いた。そこで森という一人物に会って信子について物語をしていることがやはり日記に残されている。「……兄と余とは交る/″\信子君につきて見聞したる所、並に余等の彼女に就きてかくと信じたる事を語りぬ。彼の胸の屡・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 一九一八年十月二十三日〔東京市本郷区駒込林町二一 中條葭江宛 シカゴより〕 此頃のアメリカの新聞は、講和問題で賑って居ります。独逸が潜航艇を皆引上げそうな事を云ったり、平和を要求したりするような顔をするが、実は、羊の皮を着・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・昔シカゴ市で見学した一つのアパートメントの有様は、今もまざまざと目に残っています。ある一つのドアをノックしました。そのクリーム色に塗られた近代風のドアが開くと、その一間住宅であるアパートメントの瀟洒な布張のアーム・チェアに細君がかけて編物を・・・ 宮本百合子 「よろこびの挨拶」
出典:青空文庫