・・・の板、わが家のそれに非ず、あやしげの青い壁紙に大、小、星のかたちの銀紙ちらしたる三円天国、死んで死に切れぬ傷のいたみ、わが友、中村地平、かくのごとき朝、ラジオ体操の音楽を聞き、声を放って泣いたそうな。シンデレラ姫の物語を考えついた人は、よっ・・・ 太宰治 「喝采」
・・・ とんでもないシンデレラ姫。洋装の好みも高雅。からだが、ほっそりして、手足が可憐に小さく、二十三、四、いや、五、六、顔は愁いを含んで、梨の花の如く幽かに青く、まさしく高貴、すごい美人、これがあの十貫を楽に背負うかつぎ屋とは。 声の悪・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・私は、王子さまのいないシンデレラ姫。あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか? もう、ふたたびお目にかかりません。 太宰治 「女生徒」
・・・物語の終りは、そのようにいじめられた落窪の姫に思いもかけない立派な愛人が出来て、堂々とした生活をするようになる、一種の「シンデレラ物語」であるけれども、ここでまた私たちの目をひくのはこの落窪の姫が非常に縫物が上手で家中の者の縫物をやらせられ・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・昔から可哀そうな少女のお話の女主人公は継娘ときまっていて、ヨーロッパにも「シンデレラ」の物語がある。女の感情生活は社会のひろい風に吹かれていないから、母性も粗野で愛情はともすれば動物的に傾きやすい。「家」という昔ながらの封建のしきたりは、ど・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・ いくら笑っていても日本女は英国人の愛するお伽噺の女主人公美しきシンデレラではなかった。既に過去何十年間かこの宮殿にない図書室、科学、芸術、工業の知識普及のためのクルジョーク。モスクワではあらゆるけちな労働者クラブにさえ満ち溢れるそれら・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫