・・・ やがて、電燈のスイッチがパチッと鳴ると同時に部屋が明るくなった。深谷が寝台から下りてスリッパを履いて、便所に行くらしく出て行った。 安岡の眼は冴えた。彼は、何を自分の顔の辺りに感じたかを考え始めた。 ――人の息だった。体温だっ・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・老技師は受話器を置いて叫びました。「さあ電線は届いたぞ。ブドリ君、始めるよ。」老技師はスイッチを入れました。ブドリたちは、天幕の外に出て、サンムトリの中腹を見つめました。野原には、白百合がいちめんに咲き、その向こうにサンムトリが青くひっ・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・それから、家へ帰って、ラジオを点けようと思って、スイッチをひねったところが、ぼッと鳴って、そのまま何の音も聞えないんです。それで、電車の火と、ラジオのぼッといっただけの音とを結びつけてみて、考え出したのですよ。それが僕の光線です。」 こ・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫