・・・古いが、もとは相当にものが良かったらしい外套の下から、白く洗い晒された彼女のスカートがちらちら見えていた。「お前は、人をよせつけないから、ザンパンが有ったってやらないよ。」「あら、そう。」 彼女は響きのいい、すき通るような声を出・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・青木さんも無言で、キヌ子のスカートなど直してやる。田島は、一足さきに外に飛び出す。 ああ、別離は、くるしい。 キヌ子は無表情で、あとからやって来て、「そんなに、うまくも無いじゃないの。」「何が?」「パーマ。」 バカ野・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ 橋のたもとに、花江さんが立っていました。スカートが短かすぎるように思われました。長いはだかの脚をちらと見て、私は眼を伏せました。「海のほうへ行きましょう」 花江さんは、落ちついてそう言いました。 花江さんがさきに、それから・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・私は女学校時代のつぎはぎだらけのスカートに、それからやはり昔スキーの時に着た黄色いジャケツ。此のジャケツは、もうすっかり小さくなって、両腕が肘ちかく迄にょっきり出るのです。袖口はほころびて、毛糸が垂れさがって、まず申し分のない代物なのです。・・・ 太宰治 「恥」
・・・靴磨が女の靴をみがきながら、片足を揚げた短いスカートの下から女の股間を窺くために、足台をだんだん高くさせたり、また、男と女とがカルタの勝負を試み、負ける度びに着ているものを一枚ずつぬいで行き、負けつづけた女が裸体になって、遂に危く腰のものま・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・丁度、私が紐育の或大学寄宿舎に居た時日々顔を合わせたような、肥満した二重顎の婦人達ばかり、スカートをパッと拡げて居るのである。 隠れ乍らも、私の心は、深い悲哀に満されて居る。男を追って走り去った赤い洋服の娘のことが心掛りで仕方ないのであ・・・ 宮本百合子 「或日」
・・・女学校でさえ制服のスカートの長さを、長いとか短いとか、喧しくいった。男はすべていがぐり、女のパーマネントは打倒。そして私たちは戦争に追いたてられ、今日のギセイとなっている。 ブルジョア民主主義の進んだ国ではそれぞれの人が自分の能力とこの・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・そうなりゃ、スカートはいた職長が見つかるだろうよ!」「追っ払っちまうぞ!」 怒鳴り出したのはソモフだ。「我々の日常生活ん中で、貴様みたいな見本は――第一の敵だぞ。お前ん中からそいつをたたき出してやるぞ!」 工場管理者代理ルイ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ 名のとおり日本服を改良して、洋装との間にしようとした改良服は、上を、つつ袖の口をひらひら飾りにし、うち合わせ襟で、スカートの部分とくっつけたワンピースだった。スカートは袴の伝統をもって、きちんとたたんで襞をつけられ、バンドのうしろは袴・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ 居る女達は、皆、私が絵で好いて居るゆったりと見事な身の廻りをして、小姓に長いスカートをかかげさせて、左の掌に白い羽根の扇をのせてしとやかに動いて居る。 あっちの根元に立派なホールがあって、集った人達が笛を吹いたり※イオリンを鳴らし・・・ 宮本百合子 「草の根元」
出典:青空文庫