・・・(Ice.)steik は steka と親類で英語の stick すなわちステッキと関係があり、串に刺して火にあぶる「串焼き」であったらしい。このステッキがドイツの stechen につながるとすると今度は「突く」「つつく」が steik・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・それからステッキでも振り回わしてその辺を散歩するのである。向へ出て見ると逢う奴も逢う奴も皆んな厭に背いが高い。おまけに愛嬌のない顔ばかりだ。こんな国ではちっと人間の背いに税をかけたら少しは倹約した小さな動物が出来るだろうなどと考えるが、それ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・見ると一人の変に鼻のとがった、洋服を着てわらじをはいた人が、手にはステッキみたいなものをもって、みんなの魚をぐちゃぐちゃかきまわしているのでした。 その男はこっちへびちゃびちゃ岸をあるいて来ました。「あ、あいづ専売局だぞ。専売局だぞ・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・バナナン大将「つかれたつかれたすっかりつかれた脚はまるっきり 二本のステッキいったいすこぅし飲み過ぎたのだし馬肉もあんまり食いすぎた。」(叫「何だ。まっくらじゃないか。今ごろになってまだあかり・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・見ると、一人の変に鼻の尖った、洋服を着てわらじをはいた人が、鉄砲でもない槍でもない、おかしな光る長いものを、せなかにしょって、手にはステッキみたいな鉄槌をもって、ぼくらの魚を、ぐちゃぐちゃ掻きまわしているのだ。みんな怒って、何か云おうとして・・・ 宮沢賢治 「さいかち淵」
・・・トルコ人たちは脚が長いし、背嚢を背負って、まるで磁石に引かれた砂鉄とい〔以下原稿数枚なし〕そうにあたりの風物をながめながら、三人や五人ずつ、ステッキをひいているのでした。婦人たちも大分ありました。又支那人かと思われる顔の黄いろな人と・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ ここに、一本のステッキがある。ブルジョア作家はそれについて何を実感するであろうか。そのステッキの外見の瀟洒さ。流行。キッドの手套。キャデラック。又は半ズボンと共に郊外の散歩。あるいは忽然として、自分のわきに細い眉毛を描いて立つ洋装の女・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・間に、一人がステッキを口へ突込んで吐かせようと、我武者羅にこじ廻したのだそうだ。「今市電が立ちかけてるのよ、残念だわ」 留置場の入口が開く毎に、立ってそっちの方を見た。「きっと職場でも引っこぬきが始ってる」 市電では、一月に・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・の頭を風にふかせ、竹の御愛用ステッキを顎の下に突いてしゃがんでいたが、やがてホラどうだねと立って左、右、左、右と脚をひろげて力を入れ、小さいフワフワ棧橋をなおゆすろうとするのです。ところが不覚にも、その棧橋の陸につないであるところに私と栄さ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そして、ストラスナーヤ僧院の城砦風な正面外壁へ、シルク・ハットをかぶった怪物的キャピタリストに五色の手綱で操縦される法王と天使と僧侶との諷刺人形をつり上げ、ステッキをついた外国の散歩者の目をみはらせればよい。――ところで、 一寸、――こ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫