・・・「よし、ストップ。」嘉七が言った。「あとは歩く。」そのさきは、路が細かった。 自動車を棄てて、嘉七もかず枝も足袋を脱ぎ、宿まで半丁ほどを歩いた。路面の雪は溶けかけたままあやうく薄く積っていて、ふたりの下駄をびしょ濡れにした。宿の戸を・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・ そんなことを考えているうちに人形町辺の停留場へ来るとストップの自働信号でバスはしばらく停車した。安全地帯に立っていた中年の下町女が何気なしにバスの間を覗いていたがふと自分の前の少女を見付けてびっくりしたような顔をして穴の明くほど見詰め・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・その席上で幣原首相は、私も自分の利益のために粘っているのではない、国を憂えることは諸君と同じだが、方法が違う、と意見を披瀝しはじめたら、傍から楢橋書記翰長が、なお言をつごうとする首相に「『ストップ』と命じ、首相にこれ以上の発言を許さなかった・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
出典:青空文庫