・・・夏から秋へかけての植物界の天然の色彩のスペクトルが高さ約千メートルの岩壁の下から上に残らず連続的に展開されているのである。 眼下の梓川の眺めも独自なものである。白っぽい砂礫を洗う水の浅緑色も一種特別なものであるが、何よりも河の中洲に生え・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・ このようにして、作者は、ある特殊な人間を試験管に入れて、これに特殊な試薬を注ぎ、あるいは熱しまた冷やし、あるいは電磁場に置き、あるいは紫外線X線を作用させあるいはスペクトル分析にかける。そうしてこれらに対する反応によってその問題の対象・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・しかし私には、そうは思われない。スペクトルの色がそれぞれに美しいほんとうの色であるように、やはりそれぞれ正しい道なり原理なりが併立しうるように思われる。たとえ道や原理は唯一だとしても、同じ道や原理にもいろいろの相があり面があり、スペクトルが・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・のエネルギー分布の統計的形式によって、いろいろな不規律放射像の不規則さの様式特性が定まると考えられる、言わば規則正しい像は単線スペクトルに当たり、不規則なのは一種の連続スペクトルあるいは帯状スペクトルに当たるのである。こう考えると、形が不規・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・来の困難がかなりまで除却され、日蝕観測の結果がかなりまで彼の説に有利であっても、それはこの理論の確実性を増しこそすれ、厳密な意味でその絶対唯一性を決定するに充分なものであるとはにわかには信じられない。スペクトル線の変位のごときはなおさら決定・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・各種物質の出す光のスペクトルの研究から原子内における電子の排列を探るような有様である。 電子が一定量の陰電気を帯びている事、その質量が水素原子の質量のおよそ千八百分の一に当る事も種々の方面から推定される。かくのごとき電子の性質が次第に闡・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・いまはすっかり青ぞらに変ったその天頂から四方の青白い天末までいちめんはられたインドラのスペクトル製の網、その繊維は蜘蛛のより細く、その組織は菌糸より緻密に、透明清澄で黄金でまた青く幾億互に交錯し光って顫えて燃えました。「ごらん、そら、風・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・太陽スペクトルの七色をごらんなさい。これなどは両端に赤と菫とがありまん中に黄があります。ちがっていますからどうも仕方ないのです。植物に対してだってそれをあわれみいたましく思うことは勿論です。印度の聖者たちは実際故なく草を伐り花をふむことも戒・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫