・・・ ○寒い日当りのよいところがよい ○夜のうちに凍らす ○甲府 ○兀突と結晶体のような山骨 ○山麓のスロープから盆地に向って沢山ある低い人家 ○山嶺から滝なだれに氷河のような雪溪がながれ下って居る。・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・然し、足にまかせ、あの暢やかなスロープと、楠の大樹と、多分馬酔木というのだろう、白い、房々した、振ったら珊々と変に鳴りそうな鈴形小花をつけた矮樹の繁みとで独特な美に満ちている公園を飽かず歩き廻った。三月末から四月五六日頃にかけての奈良の自然・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・屋根裏の小さい、狭い、彼れほどの人の夫人の死場所として、外見はあまりに貧弱でございますが、その只一つほかない小窓は、スロープの彼方の良人の墓を二十四時、彼女の目前に示して居ります。 一九一八年十二月五日〔東京市本郷区林町二一 中條葭・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
出典:青空文庫