・・・概算一万三千種の書目を作るは十人のタイピストが掛っても二日や三日では出来るものではない。恐らく此記者先生は丸善を雑誌屋とでも思ったのであろう。此質問一ヵ条を持出して、『目録は出来ていません』と答えると直ぐ『さよなら』と帰って了った。 見・・・ 内田魯庵 「灰燼十万巻」
・・・、音楽家や、画家、小説家のような芸術的天分ある婦人や、科学者、女医等の科学的才能ある婦人、また社会批評家、婦人運動実行家等の社会的特殊才能ある婦人はいうまでもなく、教員、記者、技術家、工芸家、飛行家、タイピストの知能的職業方面への婦人の進出・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・ タイピストの一九二九年のレコードは一分に九十六語でこれはフランスの某タイプ嬢の所有となっている。これなども神経のはたらきの可能性に関するものである。 ロスアンゼルスのアゼリン嬢は三十六秒間に八平方メートルの面積をきれいに掃除したと・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・それが団十郎の孫にあたるタイピストをつれて散歩しているところを不意に写真機を向けて撮る真似をされたので平生妻君恐怖症にかかっているらしい社長はこの靴磨きを妻君からわざわざさし向けられた秘密探偵社の人とすっかり思い込んでしまってこの実はフィル・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・自分よりもちょっと腕のよいタイピストがあれば自分は馘になります。いつも根本的な生活の不安に脅かされているわけです。ところが社会主義的な民主国になりますと、銘々の健康に差別があるように銘々の能力には差別があります。それが差別がありながら、銘々・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・ある役所にタイピストが十何人か働いていた。戦争と共に、戦争に関係のふかいその役所では仕事が非常にいそがしくなって来た。それと同時に、この非常時に女が洋装をしていることは望ましくない。和服で通勤せよ、ということになった。それは真夏のことであっ・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・一、彼の部屋の雑然さ一、下宿の女中、片ことの日本語 英語の会話、女中たちのエクサイトメント一、パオリの幸福 父娘の散策 人のよい気の小さい若い好奇心のある父、 娘、タイピストか何か、始めて自分の小使を父の・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・また諸官庁は元より、会社でもタイピストさえ年齢十七八歳、両親の家より通勤の者にかぎり採用が現実の有様であり、男の就職上の困難は、その困難が最も少い大臣の息子たちの新米勤人姿が、写真入りで新聞の読物となる世の中である。男がきっと女を喰わせ得、・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫