・・・それに、熱中して物を云うとき、体じゅうに押し出されて来る一種類の少いダイナミックな空気を画家だったら、どんな工合に捉えて再現するのだろう。 徳田さんのもっている色調はきついチョコレートがかった茶色であり、それに漆がかっているような艷があ・・・ 宮本百合子 「熱き茶色」
・・・医師ラヴィックの生活をとおして全面に描き出されている旧いヨーロッパの秩序の崩壊に対するやきつくように鋭い意識とその意識につらぬかれつつそれをもちこたえてゆくダイナミックで強靭な感覚と神経。「凱旋門」が日本の若い人々を魅した秘密はそこにあるの・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ この小説で、作者はおそらく作品の小さくて破綻のない気分の磨き上げなどというところを目ざさず、大きくダイナミックに動いて作品として勇気のある不統一ならばそれが生じることを敢ておそれぬ心がまえであったのだろう。描こうとする現実と平行に走っ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・所謂ロシア気質というものは、イリフ、ペトロフ両人の極めてダイナミックな社会精神と感情の活動を一貫してどこにも古風なバラライカの響となってつたわってはいない。彼等は新しい人間たち、新しい文学のつくりてである。それにもかかわらず、「黄金の仔牛」・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・だが、そのうちに、ダイナミックに自然法則はとらえられる。「風知草」はやわらかいクレパスで、暖かい色調の紅い線で描かれた人生の歴史的時機のクロッキーとも云える作品である。省略され、ときには素早い現実の動きをおっかけた飛躍のあるタッチで、重吉と・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・けれども、たとえばスタインベックのダイナミックな手法が、彼の旅行記の中でソヴェト社会の建設の姿を典型的につかむことに成功しているにしろ、彼がブルジョア・デモクラシーとプロレタリアートの階級的独裁の本質的なちがいを理解せず、自国の金融資本の独・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・読者の問題は、もう作品を生み出してゆく人々自身がどういう質の読者であるかというところまでダイナミックに観察される時代になっている。そして、近頃は、その点でいろいろ深く考えさせられる実例が多い。何故なら、二三年前には文学の仕事にたずさわる人々・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・現実反映とこの散文精神の相違は、後者があくまでも社会現実に向って主動的なダイナミックな本質でなければならないことが唱えられた。しかしなおこの散文精神の提唱もその真の動性を可能ならせる内的な力を明かにし得ていなかったことは見逃し得ない点であろ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ それについて自分はどう云う decision を下すかと云うところ迄ゆき、現在の心とその decide されたものとの間にダイナミックな折衝を生じなければ、真実人格を養う力とはならない。あるもののあるのを知るだけでは足りない。知ったそれに・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・知性というものは抽象の何ものでもなく活々としてしなやかなダイナミックな生活力そのものにつけられた名である。 例えば、日本の若い婦人たちにも心からの興味と尊敬をもって読まれたキュリー夫人伝にしろ、もしキュリー夫人の一生が、ただ研究室で・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
出典:青空文庫