・・・ 勝治は、チベットへ行きたかったのだ。なぜ、そのような冒険を思いついたか、或いは少年航空雑誌で何か読んで強烈な感激を味ったのか、はっきりしないが、とにかく、チベットへ行くのだという希望だけは牢固として抜くべからざるものがあった。両者の意・・・ 太宰治 「花火」
・・・その絵の景色には、普通日本人の頭にある京都というものは少しも出ていなくて、例えばチベットかトルキスタンあたりのどこかにありそうな、荒涼な、陰惨な、そして乾き切った土地の高みの一角に、「屋根のある棺柩」とでも云いたいような建物がぽつぽつ並んで・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ あれで獄舎が壊れる。何百人かの被告は、ペシャンコになる。食糧がそれだけ助かる。警察の手がいらなくなる。それで世の中が平和になる。安穏になる。うまいもんだ。 チベットには、月を追っかけて、断崖から落っこって死んだ人間がある。というこ・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・大将「どうじゃ、これはチベット戦争じゃ。」特務曹長「なるほど西蔵馬のしるしがついて居ります。」大将「これは普仏戦争じゃ、」特務曹長「なるほどナポレオンポナパルドの首のしるしがついて居ります。然し閣下は普仏戦争に御参加になりま・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・実にそれはネパールの国からチベットへ入る峠の頂だったのです。 ネネムのすぐ前に三本の竿が立ってその上に細長い紐のようなぼろ切れが沢山結び付けられ、風にパタパタパタパタ鳴っていました。 ネネムはそれを見て思わずぞっとしました。 そ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
出典:青空文庫