・・・の中で語られているいい生活の規準は、テニス・コートもある洋風の家と丈夫で従順な妻と丈夫なほどよい数の子供達に基礎をおいているのだが、文学の本来は、そのような一個の男の欲求の肯定から出発した設計の描写ではなくて、現代の常識が何故そのような図取・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・ 父の性格はケムブリッジ学生の生活と対立するような傾きのものではなかったと思われるが、三十七歳の良人であり父親である貧乏な学生として、テニスをやって見ても大して面白くもなれぬ父の正直な、境遇の相異をおのずから語っている心持を、今日私・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ あきる時を知らない様に千世子は自分の手足とチラッと見える鼻柱が大変白く見えるのを嬉しい様に思いながらテニスコートの黒土の上を歩きまわった。 町々のどよめきが波が寄せる様に響くのでまるで海に来て居る様な気持になって波に洗われる小石の・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・其処に、木造の、深い張り出しを持った一棟古風な建物があるが、其も今手入れ最中人かげもない。テニス・コウトで草むしりをして居た女から、御堂では草履をはかせないことを聞いて戻り、やっと内に入った。 賑やかに飾った祭壇、やや下って迫持の右側に・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・陰気な程深い張出しつきの教師館を修繕中で、朽ちた床板がめくられ、湿っぽい土の匂がする。テニス・コートらしい空地で、緑の草を女がむしっている。私はやっと、御堂内では一切穿物を許さないということだけを知り得、荒れた南欧風の小径を再び下った。御堂・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・去年初めて姙娠したとき、多喜子は自分の健康に自信をもちすぎていて、テニスをしたり自転車にのったりしたために流産をした。小枝子はそのことをさしているのであった。 一仕事すんだくつろぎで番茶をのんでいると小枝子が、「きょうの『女の言葉』・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・土曜日の夜七時からある一シリング六ペンスのダンスとテニスに関する告示が鉄柵の上のビラに出してある。ここはロンドン市が誇りとする、そしてあらゆる案内書に名の出ている「民衆の宮」なのだ。何か民衆のための実際的な設備がなくてはならぬ筈である。・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・けれども、忠告を与えている人々は、例えばテニス・コートなどが、工場の若い人たちのために夕刻から夜へ開放されていないという事実を、どんなに考えているのであろうか。 してはいけない、という面のことは細々と示されていると思う。それは示しやすい・・・ 宮本百合子 「若きいのちを」
・・・それから時々往来するようになり、さそわれていっしょにテニスをやりに行ったりなどしたが、似ているのは面ざしだけでなく、性格や気質の上にもかなり濃厚に父親似が感ぜられた。当時ベルリンで逢う日本人のうちでは、一番傑出した人物であったかもしれない。・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫