・・・異教席から瘠せた顔色の悪いドイツ刈りの男が立ちました。祭司次長は軽く会釈しました。その人も答礼して壇に上ったのです。その人は大へん皮肉な目付きをして式場全体をきろきろ見下してから云いました。「今朝私どもがみなさんにさしあげて置いた五六枚・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
ソヴェト同盟の南にロストフという都会がある。ドン川という大きい河に沿って、花の沢山咲いた綺麗な街が、新しい労働者住宅やクラブの間にとおっている。私は七月のある朝、ドイツからソヴェト同盟へやって来たドイツの労働者見学団といっ・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ このような例は過去の文化上の貴重な遺産の整理ということについて、決して笑話に終らない本質をもっていると思える。 ドイツでは、大層盛大なワグナア祭典が行われていたり、ゲーテやシラーについて政府としての評価が語られたりしているようだ。・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・ トーマス・マンというドイツの民主的精神をもつ作家の名は、日本にもよく知られている。「ブッテン・ブーローク」や「魔の山」「ロッテかえりぬ」などは翻訳でひろくよまれている。マンには六人の子供たちがある。長女エリカ・マン。そのつぎのクラウス・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・それだから政治をするには、今でも多数を動かしている宗教に重きを置かなくてはならない。ドイツは内治の上では、全く宗教を異にしている北と南とを擣きくるめて、人心の帰嚮を繰って行かなくてはならないし、外交の上でも、いかに勢力を失墜しているとは云え・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・丁度後にドイツの本を読むことになってからズウデルマンよりはハウプトマンが好だと云うと同じ心持で、そう云う愛憎をしたのである。 春水の人情本には、デウス・エクス・マキナアとして、所々に津藤さんと云う人物が出る。情知で金持で、相愛する二人を・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・「あなたの光線は、威力はどれほどのものですか。」 梶が栖方に訊ねてみようかと思ったのも、何かこのとき、ふと気かがりなことがあって、思いとまった。「ドイツの使い始めたV一号というのも、初めは少年が発明したとかいうことですね。何んで・・・ 横光利一 「微笑」
・・・何もかも故郷のドイツなどとは違う。更けても暗くはならない、此頃の六月の夜の薄明りの、褪めたような色の光線にも、また翌日の朝焼けまで微かに光り止まない、空想的な、不思議に優しい調子の、薄色の夕日の景色にも、また暴風の来そうな、薄黒い空の下で、・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・ ヘルマン・バアルは露都で得た芸術の酔いごこちをフランクフルト新聞に披瀝して、神のごときデュウゼをドイツに迎えようと叫んだ。これが導火線となって翌九二年デュウゼは初めてウィーンへはいった。彼女が空虚なるカアル劇場に歩み入った時には一・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
キェルケゴオルのドイツ訳全集は一九〇九年から一九一四年へかけて出版せられた。その以前にも前世紀の末八〇年代から九〇年代へかけて彼の著書はかなり翻訳せられたが、宗教的著作のほかは、かなり厳密を欠いたものであった。 彼に関する研究は、・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫