・・・一部の人士は今の文人を危険視しているが、日本の文人の多くは、ニヒリスト然たる壁訴訟をしているに関わらず、意外なる楽天家である。 新旧思想の衝突という事を文人の多くは常に口にしておるが、新思想の本家本元たる文人自身は余り衝突しておらぬ。い・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・昔から虚無の思想に到達したものは歓喜を見ない。ニヒリストの姿は寂しい。 また別に「いくら働いても人間の生活はよくならぬ、人間は苦しみの為に生れて来たのだ。」と云う無産階級者の苦悩も、現在の社会制度が現在の儘であるならば、或は免れ難い苦悩・・・ 小川未明 「波の如く去来す」
・・・いま流行のニヒリストだとでもいうのか、それともれいの赤か、いや、なんでもない金持ちの気取りやなのであろうか、いずれにもせよ、僕はこんな男にうっかり家を貸したことを後悔しはじめたのだ。 そのうちに、僕の不吉の予感が、そろそろとあたって来た・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・ 百千年の後に軽率な史家が春秋の筆法を真似て、東京市民をニヒリストの思想に導いた責任者の一つとして電気局を数えるような事が全くないとは限らないような気もする。 十幾年前にフィンランドの都ヘルジングフォルスへ遊びに行った時に私を案内し・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・は、一部の批評家によると、日本のニヒリストが、現代ロマネスクのチャンピヨンとしてあらわれた驚異の一つであったようだ。「脱出」という言葉を日本の文学の上に、ふたたびよむとき、わたしたちの心には、ある思いが湧く。一九三六年ごろ、イタリー映画・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・日本の小市民の生活につきまとううらぶれとあてどない人生への郷愁の上に財をつんだ。そして、男の子を貰い、学習院に入学させている。「あすこは父兄が、そろっているから」という理由だそうである。日本のニヒリストとして、一部の人々から崇敬されているあ・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・とらえようとしたツルゲーネフは、自分たちを現実主義者と名づけ、宗教、私有財産制、そこから生じる一切の不合理、暗愚と偽瞞をとりのぞいて知慧の光に輝く社会の共同生活を発見しようとしている若い急進的青年を「ニヒリスト・虚無主義者」という名で、批判・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
出典:青空文庫