・・・しかして彼の心に思い当りましたのはノルウェー産の樅でありました、これはユトランドの荒地に成育すべき樹であることはわかりました。しかしながら実際これを試験してみますると、思うとおりには行きません。樅は生えは生えまするが数年ならずして枯れてしま・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・萌黄の背広に萌黄の柔らかい帽子を着たこういう男にたいていな所で出くわすのは不思議なくらいです。ノルウェーの船でもこんな男に会ったし、ヴェスーヴの火山でも会いました。いずれも巻き舌のような調子で「ウェル」とかなんとか言っているのです。階段の壁・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・それは、英独には地震が少ないからと言って日本で地震研究を怠る必要のないと同様である。ノルウェーの理学者が北光の研究で世界に覇をとなえており、近ごろの日本の地震学者の研究はようやく欧米学界の注意を引きつつある。しかしそれでもまだ灸治の研究をす・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・鯨取りもとうにもうノルウェー式か何かになってしまったはずだから、自分が父から聞いたような美しい勇ましい夢物語はやはり永久の夢物語になってしまったに相違ない。 甥のRが死んでからもう二十余年になるので当時の想い出を話し合う相手もなくなって・・・ 寺田寅彦 「初旅」
・・・初めの半分はオラーフ・トリーグヴェスソンというノルウェーの王様の一代記で、後半はやはり同じ国の王であったが、後にセント・オラーフと呼ばれた英雄の物語である。 大概は勇ましくまた殺伐な戦闘や簒奪の顛末であるが、それがただの歴史とはちがって・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・前年九月ワルソーに突入したナチス軍は四〇年の春ノルウェーに進出し、五月マジノ線を突破して一ヵ月の後フランスを降伏させていた。第二次ヨーロッパ大戦は次第にクライマックスに向いはじめた。日本の天皇制権力とその軍閥は目前のドイツファシズムの勝利に・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・三九年十二月に国際連盟はソヴェト同盟を除名し、ナチス軍はノルウェー、デンマーク、オランダ、ベルギーを侵略した。そして独ソ間の不可侵条約をあざ嗤って、ナチスの大軍がウクライナへとなだれこんだころ、わたしは、しばしばかつてよんだフランス女学生の・・・ 宮本百合子 「私の信条」
出典:青空文庫