・・・家主がマルクス一家のシーツからハンカチーフ迄差押え、子供のおもちゃから着物まで差押えたときくと、あわてた薬屋、パン屋、肉屋、牛乳屋が勘定書を持って押かけて来た。その支払いのためには残らずのベッドが売られなければならなかった。二三百人もの彌次・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・そういう今日の共感に交えてデスデモーナのオセロにたいする封建的な屈従と畏怖とが、大切な愛をおどおどとさせ、才覚とほんとうの正直さとを失わせ、一枚のハンカチーフを種にイヤゴーの奸策につけ入らせた。そのルネッサンス女性の暗愚さは、ソヴェトの若い・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・「――ハンカチーフ」 其那問答をした、細かいことまで明瞭に思い出され、悉く意味ありげに感じられて来るのが、愛には苦痛であった。「これにお前も懲ればいいさ」 愛は悄気て「ほんとうよ」と答えた。「人には出来心って奴が・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・そして、悲劇もシェークスピアにおいては、何かその原因となるデスデモーナのハンカチーフのようなものをもっている。オセロの敏感な自尊心――黒人の劣等感のうらがえされたもの――そのものと、イヤゴーのユダ的性格そのものが、性格と性格の格闘として悲劇・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・デスデモーナは一枚の見事なハンカチーフをもっていた。それはオセロがくれたもので、なくさないように、もしこれをなくしたら、あなたの愛も失われたと思うよ、という意味を云われて、愛のしるしとしておくられたものであった。イヤゴーの目がそのハンカチー・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・傍聴席にいた竹内被告の妻政さんは、ハンカチーフを顔にあててうずくまり、これにニュースカメラが焦点をあわせると、その前に坐っていた伊藤被告の妻が子供を抱いた身体をつき出してかばい、毎日新聞のカメラは証言台に立って陳述する竹内被告の後のところで・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・紙入、そして一冊の平凡な手帳。ハンカチーフ其他――。 この手帳こそ、父の生涯を通じての動く書斎であり、秘書のようなものであったと思います。誰かと会見する約束が生じる。すると父はすぐ内ポケットから手帳を出して、それを書きこみます。百合子、・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・オセロの悲劇は美しくやさしいオセロの妻デスデモーナが、女として一枚のハンカチーフをどう扱ったかというところにかかっている。 エミール・ヤニングスが映画のオセロに扮したとき、彼はそのもち味で、黒人の英雄であるオセロの直情径行の素朴な人間性・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
・・・デスデモーナのハンカチーフ。単行本。『伸子』〔第二部〕。播州平野。作家と作品。貧しき人々の群。歌声よおこれ。幸福について。宮本百合子選集第一巻、同第三巻。新しい婦人と生活。真実に生きた女性たち。婦人と文学。一九四・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・「デスデモーナのハンカチーフ」「復活」などは、珍しく芝居につき、この集のために新しく書いた。 一九四七年十二月〔一九四八年二月〕 宮本百合子 「はしがき(『女靴の跡』)」
出典:青空文庫