・・・ことにその誇りとするところはその乳産であります、そのバターとチーズとであります。デンマークは実に牛乳をもって立つ国であるということができます。トーヴァルセンを出して世界の彫刻術に一新紀元を劃し、アンデルセンを出して近世お伽話の元祖たらしめ、・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・朝は大抵牛乳一合にパン四分の一斤位、バターを沢山付けて頂きます。その彼へスープ一合、黄卵三個、肝油球。昼はお粥にさしみ、ほうれん草の様なもの。午後四時の間食には果物、時には駿河屋の夜の梅だとか、風月堂の栗饅頭だとかの注文をします。夕食は朝が・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・それにバターと、南京袋の臭いがまざった。 調理台で、牛蒡を切っていた吉永が、南京袋の前掛けをかけたまま入口へやって来た。 武石は、ぺーチカに白樺の薪を放りこんでいた。ぺーチカの中で、白樺の皮が、火にパチパチはぜった。彼も入口へやって・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・テーブルの上には、緑や黒の植木の鉢が立派にならび、極上等のパンやバターももう置かれました。台所の方からは、いい匂がぷんぷんします。みんなは、蚕種取締所設置の運動のことやなにか、いろいろ話し合いましたが、こころの中では誰もみんな、山男がほんと・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・それですからこの派の人たちはバターやチーズも豆からこしらえたり、又菜食病院というものを建てたり、いろいろなことをしています。 以上は、まあ、ビジテリアンをその精神から大きく二つにわけたのでありますが、又一方これをその実行の方法から分類し・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・小麦、バター、麻、羊毛あらゆる農業生産品の買占人が跳梁しはじめた。 こうして二年三年経つうちには、富農は反ソヴェト的な利害をもった農村の階級として、意外に深い根をおろした。一九二八年の秋を見るなら、我々は立ちどころに彼等の擾乱作用を理解・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・始め羊水が多すぎると言って食物制限をして、バターを食べさせなかったところ、小鷹さんに診せたら心臓が丈夫でない為、うっ血してガスが発生し、その為お腹が人並より大きいし、全体むくんでもいるというわけで、勿論バターなどは是非たくさん食べた方がいい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ただ一人の小説を書く女として暮しておりましたから、パンもバターも特別な便利で買えるような条件はありませんでしたし、いろいろな食物にも本当に困りました。特権がありませんでした。普通のソヴェト市民よりもっと能力がない、労働組合にも属していないも・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・ わきの寝台に腰をかけ、前へ引きよせた椅子の上に新聞をひろげ、バター、キューリ、ゆで卵子二つ、茶でファイエルマンが夕飯をたべる。彼女は昼の残りの肉を ナイフでたたき乍ら――この肉上げましょうか、食べたくなる程美味しい肉ですよ 全くさ・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・然し私共は京都を出たばかりから、美味い紅茶やバターの味の欠乏を感じていた。長崎ではホテルに泊るというのが、楽しみの一つでもあった。 停車場前の広場から大通りに出ると、電車の軌道が幌から見える。香港、上海航路廻漕業の招牌が見える。橋を渡る・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫