・・・やはり浴衣がけの背の高い男が、バトンを持っているような手つきで、拍子をとっているのが見える。ジョオンズは、歌の一節がきれるたびに、うなずいて「グッド」と言った。が何がグッドなのだが、僕にはわからない。 船のほうは、その通り陽気だが、波止・・・ 芥川竜之介 「出帆」
・・・それからまもなく、れいのドカンドカン、シュウシュウがはじまりましたけれども、あの毎日毎夜の大混乱の中でも、私はやはり休むひまもなくあの人の手から、この人の手と、まるでリレー競走のバトンみたいに目まぐるしく渡り歩き、おかげでこのような皺くちゃ・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・飛躍が少しはじまりかけたままの姿で、むなしくバトンは次の選手に委ねられた。次の選手は、これまた生意気な次女である。あっと一驚させずば止まぬ態の功名心に燃えて、四日目、朝からそわそわしていた。家族そろって朝ごはんの食卓についた時にも、自分だけ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 近代日本のブルジョア文学において、常に綯いまぜられて来た退嬰的な妥協的な封建的戯作者風の残りものとの関係においては、進歩的面のバトンの運び手であった自我の探求は今日、未開のまま外ならぬ生みの親のブルジョア文学者の手でむしられるとい・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫