・・・その外には、つぎのあたった木綿縞や紅木綿の襦袢や、パッチが入っていた。そういうものを着られるだろうと持って来たのだが、嫁に見られると笑われそうな気がして、行李の底深く押しこんでしまった。 ばあさんは、屋内の掃除から炊事を殆ど一人でやった・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・他の二人も老人らしく似つこらしい打扮だが、一人の濃い褐色の土耳古帽子に黒い絹の総糸が長く垂れているのはちょっと人目を側立たせたし、また他の一人の鍔無しの平たい毛織帽子に、鼠甲斐絹のパッチで尻端折、薄いノメリの駒下駄穿きという姿も、妙な洒落か・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・頭を剃ったパッチばきの幇間の態度がいかにもその処を得たように見えはじめた。わたくしは旧習に晏如としている人たちに対する軽い羨望嫉妬をさえ感じないわけには行かなかった。 三月九日の火は、事によるとこの昔めいた坊主頭の年寄をも、廓と共に灰に・・・ 永井荷風 「草紅葉」
・・・この必要を認め、女のそういう奮起、たくましさをよみすればこそ、良人の代りに絣のパッチ・ゴム長姿で市場への買い出しから得意まわりまでをする魚屋のおかみさんの生活力が、今日の美談となり得ているのではあるまいか。 若い女のひとたちに向って、家・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
出典:青空文庫