・・・この見かけ上のパラドックスは、実は「あたま」という言葉の内容に関する定義の曖昧不鮮明から生まれることはもちろんである。 論理の連鎖のただ一つの輪をも取り失わないように、また混乱の中に部分と全体との関係を見失わないようにするためには、正確・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・これに反して新しい方面のみの追究は却って陳腐を意味するようなパラドックスもないではない。かくのごとくにして科学の進歩は往々にして遅滞する。そしてこれに新しき衝動を与えるものは往々にして古き考えの余燼から産れ出るのである。 現今大戦の影響・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・しかしそういう一般的な問題は別として、ここで例にとったニュートンの方則の場合について物理学の範囲内だけで考えてみても、結局ニュートン自身が彼自身の方則を理解していなかったというパラドックスに逢着する。なんとなれば彼の方則がいかなるものかを了・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・このパラドックスは実は何でもない事である。ちょうど科学者がある実験を想像してその経過を既知の方則で導いて行くと同じように、作者は先ずある人間とその環境とを想定して、作者の把えていると信ずる一種の方則に照らして事件の推移を追究して行くのである・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・ これは必ずしもパラドックスではない。 数学の方で収斂級数というものがある。第一項に第二項を加え更に第三第四と無限の項を附け加えると、その総和は有限なものになる。例えば1+1/22+1/32+1/42+………………… a・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・というパラドックスが云わば云い得られなくはない。 中学校でS先生から生物学の初歩を教わったときの話である。主に口授を筆記するのであったが、たまたま何かの教材の参考資料として、英国製で綺麗な彩色絵の上に仮漆を引いた掛図を持出し、その中のあ・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・という事は争われないパラドックスである。上の曲線は確かに一つの事実を示すが、これは必ずしも厄年の無意味を断定する証拠にはならない。 科学者が自然現象の週期を発見しようとして被与材料を統計的に調査する時に、ある短い期間については著しい週期・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・死は彼らの成功である。パラドックスのようであるが、人事の法則、負くるが勝である、死ぬるが生きるのである。彼らはたしかにその自信があった。死の宣告を受けて法廷を出る時、彼らの或者が「万歳! 万歳!」と叫んだのは、その証拠である。彼らはかくして・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ そこでそう云うものを開化とすると、ここに一種妙なパラドックスとでも云いましょうか、ちょっと聞くとおかしいが、実は誰しも認めなければならない現象が起ります。元来なぜ人間が開化の流れに沿うて、以上二種の活力を発現しつつ今日に及んだかと云え・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫