・・・ 鉄針と竹針とによる音色の相違はおそらく針自身の固有振動にも関係するだろうしまた接触点の弾性にもよるだろうが、これらの点を徹底的に研究すれば今後の改良に関する有益なヒントを得られるだろうと思われる。 いずれにしてもまだ現在の蓄音機は・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・ B教授は欧州大戦の刺激から得たヒントによってある軍事上に重要な発明をして、まずF国政府にその使用をすすめたが採用されないので次に某国に渡って同様な申し出をした。某国政府では詳しくその発明の内容を聞き取り、若干の実験までもした後に結局そ・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・空想の翼はさらに自分を駆って人間に共通な舞踊のインスティンクトの起原という事までもこの猫の足踏みによって与えられたヒントの光で解釈されそうな妄想に導くのであった。 赤ん坊の胴を持ってつるし上げると、赤ん坊はその下垂した足のうらを内側に向・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・という現象の機能や本質について何かしらあるヒントを得るように思う。 笑いの現象を生理的に見ると、ある神経の刺激によって腹部のある筋肉が痙攣的に収縮して肺の中の空気が週期的に断続して呼び出されるという事である。息を呼出する作用にそれを食い・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・いくらオリヂナルの人でも前に外の絵を見ておらなかったならば、あれだけのヒントを得ることは出来なかったと思う。ヒントを得るということとイミテートするということとは相違があるが、ヒントも一歩進めばイミテーションとなるのである。しかしイミテーショ・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・そして、直接かいた手紙でふれたよりも、もっとひろがった答えとヒントを添えます。〔一九五〇年七月〕 宮本百合子 「結論をいそがないで」
・・・それは、論ぜられているそのことが、論として読者である私を承服させるというばかりでなく、一つ一つと読み深めてゆくにつれて私のなかの作家としての心が目醒され、ヒントをうけ、身じろぎを始めて文学への情愛を一層しみじみと抱き直すような感情におかれた・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・の人はこんな心持でいるということだけは分らせるけれど、ルポルタージュとして今日の社会に生きる一人の女性とその周囲とのいきさつを丸彫りに浮び上らせて来ないから、読んだ人がそこから自分と自分の周囲を考えるヒントを得て来ることも出来ないし、又、書・・・ 宮本百合子 「新女性のルポルタージュより」
・・・よくならされた犬のように、ヒントで支配される隷属的人民をつくるための方法であるとさえ云える。 封建性がのこっているために、目前の権力に屈従しやすい日本の習慣の上へ、第一ヒント、第二ヒント、ヒントで導かれる心理習慣に抵抗しなかったら、わた・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・このような点では、科学の発展のヒントをつかむ人間精神の活動の瞬間と文学によりゆたかな作品をもたらすモメントと、大変互に似よっているのである。 近頃「事実の世紀」というようなヴァレリーの言葉が、一部で翻訳され、人間が存在する限り、方法的変・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
出典:青空文庫