・・・これを製作する監督、またそれを享楽する映画ファンの忍耐心の強いのは驚嘆すべきものである。そうしてまた、あれだけ大勢があれだけ多数の大刀を振廻わして、そうして誰も怪我をしないようにするという芸術はおそらく世界にユニークなものであろう。そう思っ・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・と云われるTKの弟子になってその芸名のイニシアルを貰い、花やかに売出したのであったが、財界の嵐で父なる富豪が没落の悲運に襲われたために、その令嬢なるKは今では自分の腕一つで働いて生活しているという話をファンの一人であるところのSから時々聞か・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・一面に陳列された商品がさき盛った野の花のように見え、天井に回るファンの羽ばたきとうなりが蜜蜂を思わせ、行交う人々が鹿のように鳥のようにまたニンフのように思われてくるのである。あらゆる人間的なるものが、暑さのために蒸発してしまって、夢のような・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・「科学ファン」を喜ばすだけであって、ほんとうの科学者を培養するものとしては、どれだけの効果がはたしてその弊害を償いうるか問題である。特にそれが科学者としての体験を持たないほんとうのジャーナリストの手によって行なわれる場合にはなおさら・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ 二人ともにあるいは昔からの活動写真、近ごろの発声映画のファンででもあるかとも考えてみた。そうとでも仮定しなければ他に説明のしかたのないほどに、あく抜けのしたヤンキータイプを見せていた。 喫茶店などで見受ける若い男女に活動仕込みの表・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・ 現象の本性に関する充分な知識なしに、ただ電気のテクニックの上皮だけをひとわたり承知しただけで、すっかりラディオ通になってしまったいわゆるファンが、電波伝播の現象を少しも不思議と思ってみる事もなしに、万事をのみこんだ顔をしているのがおか・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・ ファンネルの烟を追っていた火夫が、烟の先に私を見付けて、デッキから呶鳴った。「持てたよ。地獄の鬼に!」 私は呶鳴りかえした。「何て鬼だ」「船長ってえ鬼だったよ」「大笑いさすなよ。源氏名は何てんだ?」「源氏名も船・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・二百六十四名、主に少女工剣劇ファン○職工と女工と別の出入口をもっているところもある。○壁のわきのゴミ箱。○脱衣室のわきの三尺の大窓。○あき地で塀なし。わきから通って、となりの工場へ行ける?○三井品川工場 塩原文作。資・・・ 宮本百合子 「工場労働者の生活について」
・・・足りなさは、それが未熟だからでも、稚拙だからでもなく、それどころか、どの作品も趣向はそれぞれにこらしてあって、手綺麗に色もとりどりであるけれども、そのあまりにも多くが、駅の売店につられている派手なセロファン人形だ、という、そのもの足りなさで・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
出典:青空文庫