・・・たとえば大砲の砲腔をくり抜くときに熱を生ずることから熱と器械的のエネルギーとの関係が疑われてから以来、初めはフラスコの水を根気よく振っていると少し温まるといったような実験から、進んで熱の器械的当量が数量的に設定されるまで、それからまた同じよ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・首の長いガラスのフラスコの底板を思い切り薄くして少しの曲率をもたせて彎曲させたものである。その首を口にふくんで適当な圧力で吹くと底のガラスの薄板がポンという音を立ててその曲率を反転する。逆に吸い込むとペンと言ってもとの向きに彎曲する。吹くの・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ブンゼン燈のバリバリと音を立てて吹き付ける焔の輻射をワイシャツの胸に受けながらフラスコの口から滴下する綺麗な宝石のような油滴を眺めているのは少しも暑いものではなかった。 夕方井戸水を汲んで頭を冷やして全身の汗を拭うと藤棚の下に初嵐の起る・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・それでこの録音ならびに発音器械の不完全を利用して、近いピストルを遠く聞かせたり、人声を井戸の底から響くように聞かせたりすることも可能になるわけである。フラスコの中で歌う人造人間の歌を、さもさもそうらしく聞かせるような音響トリックもできていい・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・ロバート・マイヤーがフラスコの水を打ち振った後にジョリーの室へ駆け込んで "Es ischt so !" と叫んだのは水が「あたたまった」ためで、それが何度点何々上ったためではなかったのである。ロェンチェン線の発見が学界を驚かしたのはその波・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・ マットン博士はしずかにフラスコから水を呑み肩をぶるぶるっとゆすり腹を抱えそれから極めて徐ろに述べ始めました。「ビジテリアン同情派諸君。本日はこの光彩ある大祭に出席の栄を得ましたことは私の真実光栄とする処であります。 就てはこれ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ さっきの親方のアーティストが麻のモーニングを着て、大きなフラスコを手にしてみんなを押し分けて立っていました。そのうちに二三人のアーティストたちは、押虫網でその小さな黄色な毒蛾をつかまえてしまいました。「ここだよ、ここだよ。早く。」・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ルネッサンスは、近代科学の黎明ではあったけれども、錬金術師のフラスコと青く光る焔とは、まるでその時代の常識に、真黒くて尻尾のある悪魔を思いださせた。魔法の汁で恋のまことが狂わせられるということもないといえないこととして、シェクスピア時代の観・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
一 大きな実験用テーブルの上には、大小無数の試験管、ガラス棒のつっこまれたままのビーカア。フラスコ。大さの順に並んだふたつきのガラス容器などがのせられている。何という名か、そして何に使われるものかわか・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫