・・・「花は」「Flora.」 たしかに「Flower.」とは言わなかった。 その子供といい、そのパノラマといい、どんな手品師も敵わないような立派な手品だったような気がした。 そんなことが彼の不愉快をだんだんと洗っていった。い・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・「四十九」「ああ。四十九」 そんなことを言いあいながら、一度あがって次あがるまでの時間を数えている。彼はそれらの会話をきくともなしに聞いていた。「××ちゃん。花は」「フロラ」一番年のいったのがそんなに答えている。――・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・火山のすそ野でも、土地が灰砂でおおわれているか、熔岩を露出しているかによってまた噴出年代の新旧によってもおのずからフロラの分化を見せているようである。 近ごろ中井博士の「東亜植物」を見ていろいろ興味を感じたことの中でも特におもしろいと思・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 家中の女、母親も、アンナ・フロラ・ヒルダと云う三人の姉達も、女中も、皆、その驚くべき男の人達の為ばかりに何時も働き、用事をし、心配をしている。同じ同胞でも、二人の兄達は父と同じ「男」だから、母でも女中でもまるで違った扱いをします。父親・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫