・・・もう僕も、今夜かぎりで君と逢えないかも知れませんが、けれども一身の危険よりも僕にはプロパガンダのほうが重大事です。逮捕される一瞬前まで、僕はプロパガンダを怠る事が出来ない。」やはり低い声で、けれども一語の遅滞もなく、滔滔と述べはじめる。勝治・・・ 太宰治 「花火」
・・・しかし同じ事でもプロパガンダというとなんだか少し穏やかでないような気持ちがする。これは単にこの言葉の特殊の音響から来る感じなのかもしれない。 一般的に宣伝というものの手段方法が必ずしも穏やかで物静かであってはいけないという事は考えられな・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・にはまた孤独を楽しむ動物があるかと思うと、また一方ではある時期には群集を選ぶが他の時期、特に営巣生殖の時期には群れを離れて自分だけの領地を占領割拠し、それを結婚の予備行為とした上で歌を歌って領域占領のプロパガンダを叫び、そうして花嫁を呼び迎・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・ただ人間の労働者とちがうのは、口が利けない事である。プロパガンダの出来ない事である。 馬と人間と一つにはならないという人があるだろう。 そんな理窟がどこから出て来るかを聞きたい。 五 日本中の大工業家・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・その頃の工場には政党も、協同組合も相互扶助金庫もなければ、どんなアジテーションもプロパガンダも行われなかった。」十六歳だったシャポワロフは、原始キリスト教の理想を実現して、貧富の相異が消せるかと思ったのであった。 ゴーリキイがカザンで、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫