・・・中村は今ベルリンの三井か何かに勤めている。三重子もとうに結婚したらしい。小説家堀川保吉はある婦人雑誌の新年号の口絵に偶然三重子を発見した。三重子はその写真の中に大きいピアノを後ろにしながら、男女三人の子供と一しょにいずれも幸福そうに頬笑んで・・・ 芥川竜之介 「早春」
・・・オランダと云うだけは確かには分からないが、番頭は確かにそう云った。ベルリンへ来てからは、廉いので一度に二ダズン買った。あの日の事はまだよく覚えている。朝応用美術品陳列館へ行った。それから水族館へ行って両棲動物を見た。ラインゴルドで午食をして・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・大戦の始まった一九一四年の春ベルリンに移ってそこで仕事を大成したのである。 ベルリン大学にける彼の聴講生の数は従来のレコードを破っている。一昨年来急に世界的に有名になってから新聞雑誌記者は勿論、画家彫刻家までが彼の門に押しよせて、肖像を・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ またある留学生の仲間がベルリンのTという料理屋で食事をした時に、いつもするように一同で連名の絵葉書をかいた。その時誰かの万年筆のインキがほんの少しばかり卓布を汚したのに対して、オーバーケルナーが五マルクとかの賠償金を請求した。血気な連・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・しかも映画でもたとえば「ベルリン」のごときは全体としてなんらの物語を示さない。マン・レイの「海翻車」もなんらの事件を示さず、ただこの海産動物につながる連想の活動を刺激することによって「憧憬のかすみの中に浮揺する風景や、痛ましく取り止めのつか・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 三 管弦楽映画 ベルリンフィルハルモニーにおける「地獄のオルフォイス」と「カルメン」の演奏を写したものであったが、これを見ながら聴きながら考えたことは、自分がベルリンへ行って実地に臨むよりもこうした映画で鑑賞する・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・ 「パリ―ベルリン」 これに反して「パリ―ベルリン」と名づけるナンセンス映画は近ごろ見たうちで比較的おもしろい愉快なものであった。もちろん、話の筋や役者の芸などは初めから問題にはならない。おもしろいのは主として編集の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・当時ベルリンではこれを俗にキーントップと言っていた。常設館はいくつもあったがみんな小さなものでわずかの観客しか容れなかったように覚えている。邦楽座や武蔵野館のようなものはどこにもなかったようである。各地に旅行中の夜のわびしさをまぎらせるには・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ 話は変るが、一九一〇年頃ベルリン近郊の有名な某電機会社を見学に行ったときに同社の専売の電信印字機を見せてもらった。発信機の方はピアノの鍵盤のようなものにアルファベットが書いてあって、それで通信文をたたいて行くと受信機の方ではタイプライ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ ドイツは葉巻が安くて煙草好きには楽土であった。二、三十片で相当なものが吸われた。馬車屋や労働者の吸うもっと安い葉巻で、吸口の方に藁切れが飛び出したようなのがあったがその方は試した事がない。 ベルリンの美術館などの入口の脇の壁面に数・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
出典:青空文庫