・・・ソプラノがベースに聞こえたりうぐいすの声が鵞鳥のように聞こえるのでは打ちこわしである。前述のピストルの場合でも音の強度より音色のほうが大切である。近いピストルの音と遠いピストルの音との差は、単なる強度の差でなくて著しい音色の差である。それは・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・その新文化の最も目ざましい表象として維新時代の夢のまださめ切らなかった生徒たちの心に強い印象と衝動を与えたものはベースボール、フートボール、クリケット、クロケーそれからボートレースなどの新遊戯であった。若く元気な生徒らの目にはどこかの別の世・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・大将「いいか次はベース。ベース、一、の号令でこの形をつくる。二で直る。いいか。わかったか。五番。」兵卒五「はいっわかりました。ベース。盃状仕立であります。」大将「よろしい。果樹整枝法その二、ベース一。」兵卒「一、」大将「・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ 千八百円ベースが公称二千九百円になれば税率も高く、いろいろの給与が包括されてしまって、若い人は結局千八百円よりかえって少ししかとれなくなるのですから。 同じ婦人民主新聞に、G・H・Qの労働課長シュークリフ女史が、今年義務教育を終った十・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・その表情を見るような見ないような視線のはじにうつしとって、瞬間の皮肉を感じながらゆきすぎる男女の生活は、日々の勤勉にかかわらず三千七百円ベースの底がひとたまりもなくわられつつある物価の高さによろめき、喘いでいるのだ。 こういう様相が文化・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・何しろ、十五年前なら八十五円に当る千八百円ベースというもので、とどめをさされた収入なのに、物価は丸公の値上りで、あがる一方の一年でした。国民所得を戦前の百倍として、税は百二十六倍払わなければならず、経済安定本部の数字によれば、それでも去年十・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・赤字家計は三千七百円ベースでは支えきれない。文化面で一冊の書籍は、これまでの定価になかった五パーセントの取引税を読者のポケットから取ってゆくことになった。 一、以上に述べたような経済事情の悪化は、小規模な出版業者の没落と、没落しまい・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・生活必需品の値上げについて賃上げ要求をして七百円から千五百円になり、千八百円ベースの今日、物価はぐっと高くなり公定価も上って、とても千八百円ベースではやって行けなくなっている。つつましく暮して四人家族で五千六百円ばかりかかる現実となった。大・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ インフレーションはとめどがなくて、千八百円ベースは、現実の生活で規準にも何にもならなくなって来た。そこで、春さむい三月下旬のいま、新しく二千九百二十円の水準に向って、全勤労階級が種々な方法でその新給与の実現をもとめている。二千九百二十・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
・・・その税を、どういう懐の中から捻出してゆかなければならないかといえば、千八百円ベースあるいは二千四百円ベースの家計の中からです。通勤・通学のための交通費のおそろしいはね上り、またこの夏から一段とひどくなった諸物価のはねあがり。婦人靴下一足千何・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
出典:青空文庫