・・・ 呉服橋で電車を降りて店の近くへ来ると、ポンプの水が幾筋も流れてる中に、ホースが蛇のように蜒くっていた。其水溜の中にノンキらしい顔をした見物人が山のように集っていた。伊達巻の寝巻姿にハデなお召の羽織を引掛けた寝白粉の処班らな若い女がベチ・・・ 内田魯庵 「灰燼十万巻」
・・・ 彼は、ミキサーに引いてあるゴムホースの水で、一と先ず顔や手を洗った。そして弁当箱を首に巻きつけて、一杯飲んで食うことを専門に考えながら、彼の長屋へ帰って行った。発電所は八分通り出来上っていた。夕暗に聳える恵那山は真っ白に雪を被っていた・・・ 葉山嘉樹 「セメント樽の中の手紙」
・・・時間ぎめで、順ぐり用便させるとき、すこし手間をかけている男に、きくにたえない悪罵をあびせながら、水道栓にホースをつけて、かがんでいる者の頭の上から水をぶっかけた。どこでも、女のためにはいくらかの心づかいをして、たとえば、朝おきたばかりのとき・・・ 宮本百合子 「本郷の名物」
出典:青空文庫