・・・英人のホームを見馴れた眼には一家の夫人ともあろうものが酒飯の給仕をしたり、普通の侍婢と見えない婦人が正夫人と同住している日本の家庭が不思議でもありまた不愉快で堪らなかったそうだ。殊にテオドラ嬢の父は元老院議官であったが、英国のセネートアの堂・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 焼跡らしい、みすぼらしいプラットホームで、一人の若い洋装の女が、おずおずと、しかし必死に白崎のいる窓を敲いた。「窓から乗るんですか」 と、白崎は窓をあけた。「ええ」 彼はほっとしたのだった。どこの窓も、これ以上の混雑を・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
夜の八時を過ぎると駅員が帰ってしまうので、改札口は真っ暗だ。 大阪行のプラットホームにぽつんと一つ裸電燈を残したほか、すっかり灯を消してしまっている。いつもは点っている筈の向い側のホームの灯りも、なぜか消えていた。・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・子安は町の医者の娘と結婚して、士族屋敷の方に持った新しいホームから通って来た。後から仲間入をした日下部――この教員はまた性来黙っているような人だ。 この教員室の空気の中で、広岡先生は由緒のありそうな古い彫のある銀煙管の音をポンポン響かせ・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・上り下りの電車がホームに到着するごとに、たくさんの人が電車の戸口から吐き出され、どやどや改札口にやって来て、一様に怒っているような顔をして、パスを出したり、切符を手渡したり、それから、そそくさと脇目も振らず歩いて、私の坐っているベンチの前を・・・ 太宰治 「待つ」
・・・私には、なんだか本の二三十ペエジ目あたりを読んでいるような、at home な、あたたかい気がして、私の姿勢をわすれて話をした。 あくる日マツ子は、私のうちの郵便箱に、四つに畳んだ西洋紙を投げこんでいた。眠れず、私はその朝、家人よりも早・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・まじめであると同時に at home といったような心持ちであるが、しかしそこには自分の頭にある「日曜日の丸善」というものが生ずる幻影はなくてむしろ常住な職業的の興味があるばかりである。 英米の新刊書を並べた露店式の台が二つ並んでいる。・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・そうして過去のベースを逆回りして未来のホームベースに到着する夢を見ていることであろう。 寺田寅彦 「野球時代」
・・・一宮家から吉田さんの at home day に行き、コスモポリタンに行く。小崎氏が来たので、芹野さんとAと四人で Whittier に行き和田に会い、三人で、メゾンに行き、小崎と和田をのこす、青木のことを小崎からききたいだろうと思って。か・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・Wallace lodge を見るため、只見た丈で森を抜け、小さい美しい家を見て Home sick になり、チョプスイに行き歩いて家にかえる。四月 十三日 夕方七時頃から岩本さんと三人で、Music Service に行く。四月 ・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
出典:青空文庫