・・・なんでも大きなラッパのようなものをこしらえて、それをあの池の水中に沈め、別の所へ、小さなボイラーを沈めたのを鎚でたたいて、その音を聞くような事をやったように覚えている。第二次の実験は隅田川の艇庫前へ持って行ってやったのだが、その時に仲間の一・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・しかし朝の五時ごろにいつでも遠い廊下のかなたで聞こえる不思議な音ははたして人の足音や扉の音であるか、それとも蒸気が遠いボイラーからだんだんに寄せて来る時の雑音であるか、とうとう確かめる事ができないで退院してしまった。今でもあの音を思い出すと・・・ 寺田寅彦 「病院の夜明けの物音」
モスクワ滞在の最後の期間、私たちは或るホテルに暮していた。ホテルといっても、サボイのようなのではなく、お湯がほしくなると自分でヤカンを提げて下の台所まで出かけて行き、ボイラーから注いで来るような暮しぶりのホテルである。・・・ 宮本百合子 「坂」
・・・台所で使う湯と同じボイラーで沸し、白いタイルで張りつめた、明るい浴室の湯槽に、なみなみと一杯にする。 別に脱衣室と云うようなものはなくても、浴室の扉の内側に、衣服をかけて置き、洗流し式のW・C・も、洗面台も、皆此室にとりつける。 従・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
出典:青空文庫