・・・ソコノウチノ人ハドレモミンナビンボウ人バカリナノデ、ビンボウナモノハミンナヨリアツマラナケレバ、カワイソウナモノダ、ト云ッテイタノ。 トコロガ、オツウヤノバンニ、キテイタ人ガオソクナッテカラ目ヲサマシテミルト、ホトケサマノ前ニソナエテイ・・・ 小林多喜二 「テガミ」
・・・ 控室には俺の外にコソ泥ていの髯をボウ/\とのばした厚い唇の男が、巡査に附き添われて検事の調べを待っていた。俺は腹が減っているようで、食ってみると然しマンジュウは三つといかなかった。それで残りをその男にやった。「髯」は見ている間に、ムシ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・――母がたずねて行くと、薄暗い家の奥の方で、進ちゃんのお母さんが髪をボウ/\とさせ、眼をギラ/\と光らせて坐っていた。母が入ってきたのを見ると、いきなり其処へ棒立になって、「この野郎ッ! 一歩でも入ってみやがれ、たゝッき殺すぞ!」と大声で叫・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・大きく口をあくと風が僕のからだをまるで麦酒瓶のようにボウと鳴らして行くくらいですからね。わめくも歌うも容易のこっちゃありませんよ」「そうでしょうね。だけどここから見ているとほんとうに風はおもしろそうですよ。僕たちも一ぺん飛んでみたいなあ・・・ 宮沢賢治 「おきなぐさ」
・・・詩人ジョン・キーツはこの生活を憧憬して歌う、No, the bugle sounds no more,And twanging bow no more ;Silent is the irony shrillPast ・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫