・・・当時には珍しいボールドなタッチでかいた絵で、子供をおぶった婦人が田んぼ道を歩いている図であった。激烈な苦痛がその苦痛とはなんの関係もない同時的印象を記憶の乾板に焼き付ける放射線のように作用する、という奇妙な現象の一例かもしれない。 徴兵・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・この長沢先生の時間と覚えておりますが、その先生がカッパードシヤカッパードシヤとボールドへ書くので、そのカッパードシヤを書こうとしてチョークを捜すために抽斗を明けると、その抽斗の中から豆ががらがらと出て来たというような話がある。これは先生を侮・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・―― 自分は、座って サイドボールドの中を覗き 美しい柳の描いてある 水なし飴を一つつまみ ひとりで、部屋を見廻し 味わう。考えて見ると――貴女はそう思いませんか?人間そのものが芸術であると、思う。音楽や、絵や、建築・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・軽快な小枝模様でもさっぱりと出した壁の前には、単純で、細工は確かなカップボールド、サービング・チェスト。 台所との間には、どんなに小さくても配膳室があった方がよろしいでしょう。給仕をするのに、一々、大きな扉の開閉をせず、配膳室との境に、・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・左手に首をねじって、ボールドと先生とを見るわけであったが、化学の一時間は何と余力の欠けた、溌溂としたところのない時間であったろう。試験管を挾んで火にあたためて、薬の一二滴を落してふって色の変ったところを眺めたり、アルカリ反応、酸性反応と細く・・・ 宮本百合子 「私の科学知識」
出典:青空文庫