・・・けれど、ちょうど、英ちゃんの上の兄さんが、いたずら盛りであって、このはさみで、ボール紙を切ったり、また竹などを切ったりしたのです。 けれど、はさみは、不平をいいませんでした。あるときは、縁台の上に置き忘れられたり、また冷たい石の上や、窓・・・ 小川未明 「古いはさみ」
・・・やがて、橇に積んだボール紙の箱を乾草で蔽いかくし、馬に鞭打って河のかなたへ出かけて行った。「あいつ、とうとう行っちゃったぞ!」 呉清輝は、田川の耳もとへよってきて囁いた。「どうしてそれが分るかい!」「どうしても、こうしてもね・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・木綿糸の結び玉や、毛髪や動物の毛らしいものや、ボール紙のかけらや、鉛筆の削り屑、マッチ箱の破片、こんなものは容易に認められるが、中にはどうしても来歴の分らない不思議な物件の断片があった。それからある植物の枯れた外皮と思われるのがあって、その・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・もっともそのスクリーンの周囲の同平面をふろしきやボール紙でともかくもふさいでしまって楽屋と見物席とを仕切るほうがなかなかの仕事ではあった。観客は亮の兄弟と自分らを合わせて四五人ぐらいはあったが、映画技師、説明者が同時に映画製造者を兼ねるのみ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
九月中旬の事であった。ある日の昼ごろ堅吉の宅へ一封の小包郵便が届いた。大形の茶袋ぐらいの大きさと格好をした紙包みの上に、ボール紙の切れが縛りつけて、それにあて名が書いてあったが、差出人はだれだかわからなかった。つたない手跡・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・カンバスなどは使わず、黄色いボール紙に自分で膠を引いてそれにビチューメンで下図の明暗を塗り分けてかかるというやり方であった。かなりたくさんかいたが実物写生という事はついにやらずにしまった。そして他郷に遊学すると同時にやめてしまって、今日まで・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・気がついて見ると、それは切符の台紙のボール紙の厚みが著しく薄くなっていたのである。そうして、それから後は現在までずっと薄くなったままで継続しているような気がするのであるが、事実はどうだかたしかでない。 とにかく、その突然の変化の起こった・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・大きな文字で何かしら書いたのを旗のように押し立てている人もある。大きなボール紙のメガフォーンを脇の下にぶら下げているものもある。 豚や鶏は時々隊をはなれて道傍の芝生へそれようとするのを、小さな針金のような鞭でコツコツとつっついては列に追・・・ 寺田寅彦 「夢」
・・・ブドリが次の日、家のなかやまわりを片付けはじめましたら、てぐす飼いの男がいつもすわっていた所から古いボール紙の箱を見つけました。中には十冊ばかりの本がぎっしりはいっておりました。開いて見ると、てぐすの絵や機械の図がたくさんある、まるで読めな・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ 見るとそこにはファゼーロが作ったらしく、一本の棒を立ててその上にボール紙で矢の形を作って北西の方を指すようにしてありました。「さあ、こっちへ行くんだ。向うに小さな樺の木が二本あるだろう。あすこが次の目標なんだよ。暗くならないうちに・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫