・・・「何だか……ボーとなって来たよ」「頭、ひどく痛い?」「頸の……ここが痛い……体じゅう何だか……」 自分は、全く畜生 と思い自分の体までむしられる思いがした。「――今野!」 夢中になりそうになる、忠実で、強固で、謙遜な・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・どこかお台場かどこかへ小さい船の出る浮棧橋まで出てみたら、モーターボートが通ると波のうねりでその小さい四角な棧橋がプワープワーと揺れてね。丸まっちい私は平気なようなこわいようなの。鶴さんは例の「百日かずら」の頭を風にふかせ、竹の御愛用ステッ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 五日に叔父上のお会いになったときは、もうあの百日カズラに髯ボーボーではなかったってね。着物は先のままであったそうですが、今日あたりは差しいれたのが届いただろうと思って居ります。帯をしていらしったというけれど、それはどんな帯だったのか、・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・赤い光りはボーと屋根の雪までてりかえしている。 電車の乗合も、どっかのクラブか芝居へ出かけるらしい労働婦人たちが多い。今夜は国際婦人デーだ。ソヴェト同盟じゅうの労働者クラブが、演説、音楽、ダンス、芝居と、それぞれ趣向をこらして、記念の一・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・この若い男の結論も、やっぱりどこかちがっていた、というので、醒めての今はボーとなった何かお伽噺めいた印象を読者の心に注いでいる。 東郷侯爵家から警察を通じて、良子嬢をとりまいた五人の平民の若者にお礼として五十円ずつよこされ、狐につままれ・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・女達の着物はみんな薄色になって川辺には小供達がボートをうかべています。いつも行く森はまっくろいほどにしげってその中に美の女神の居る様な沼の事や丈高く自分の丈より高く生えている百合の事などを詩の人の頭にうかばせました。若い旅の詩人は大きい目を・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・ 或る午後、私が蝉の声をききながら、子供らしくボーとなったり、俄にませた感情につき動かされたりしながらその小説を書いているところへ、何かの都合で母が来た。そして、書いているものを見つけ、「それ、百合ちゃん、お前が書いたの?」とい・・・ 宮本百合子 「行方不明の処女作」
出典:青空文庫