・・・ 消防当局のほうでもたとえばポンプや梯子の改良とか、筒先の扱い方、消し口の駆け引きといったようなことはかなり詳しく論ぜられていても、まだまだだいじないろいろの基礎的問題がたくさんに未研究のままで取り残されているのである。たとえば今回のよ・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・水が上ることが知られさえすればそれが何寸上ったかを計りたくなり、ポンプを引くのにひどく力がいればそれが何人力だか計りたくなり、そうしてそれを計る事ならばだれにでもできるのである。 ガリレー、ゲーリケ以後今日まで同様なことがずっと続いて跡・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・ 跣足になって庭を掃いたり、昔風のポンプで水まきしたり、お客様のときは御給仕役もまわって来た。久留米絣の元禄袖の着物に赤いモスリンの半幅帯を貝の口に結んだ跣足の娘の姿は、それなり上野から八時間ほど汽車にのせて北へ行った福島の田舎の祖母の・・・ 宮本百合子 「青春」
去年の今頃はもう鎌倉に行っていた。鎌倉と云っても、大船と鎌倉駅との間、円覚寺の奥の方であった。不便極るところで、魚屋もろくに来ず、食べ物と云えば豆腐と胡瓜。家の風呂はポンプがこわれて駄目だから、夕方になると、円覚寺前の小料・・・ 宮本百合子 「夏」
・・・ 前の井戸ばたでポンプの音がきこえ、子供の声が微かにした。雨戸をしめたままでなお書いていたら、どこかでホーホケキョ、ケキョとふっくりした鶯の鳴音がした。私は覚えず耳を欹てた。余りつづけては鳴かず、その一声きりであったが、その声は、私に或・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・べこ もやあさん ポンプ、けさもべこが寝て居るうち、出ない出ないとフーちゃん、貞ベエ、話して居た。――今は出るけれども、水倹約の布告を出しました、今日。 〔欄外に〕○デーニギ 電報が来るまで待って居てよろしい?・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・台の下やその他の隅々はまだ真新しいコンクリート床で、みんながきまって盛に往来するところだけ泥あとのついた炊事場で、ポンプをくみ上げる音、薪をわる音がおこった。 夕闇の濃くなったそとへ出ようとする玄関口の受付に、電燈がともっていた。そこに・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・裏のポンプのところで、下駄屋の犬とふざけていた。すると、女房が遽しく水口から覗いて、「ちょいと! お前さん」と変に熱心なおいでおいでをした。石川は、なお尻尾を振って彼の囲りを跳び廻る犬を、「こらこら、さあもう行った、行った」・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫