・・・鼻孔から、喉頭が、マラソン競走をしたあとのように、乾燥し、硬ばりついている。彼は唾液を出して、のどを湿そうとしたが、その唾液が出てきなかった。雪の上に倒れて休みたかった。「どうしたんだ?」 中隊長は腹立たしげに眼に角立てた。「道・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ 山上通信太宰治 けさ、新聞にて、マラソン優勝と、芥川賞と、二つの記事、読んで、涙が出ました。孫という人の白い歯出して力んでいる顔を見て、この人の努力が、そのまま、肉体的にわかりました。それから、芥川賞の記事を読・・・ 太宰治 「創生記」
・・・千米、五千米、いやいや、もっとながい大マラソンであった。 勝ちたい。醜くあせって全精力つかいはたして、こんなに疲れてしまっているが、けれども、私は選手だ。勝たなければ生きて行けない単純な選手だ。誰か、この見込みの少い選手のために、声援を・・・ 太宰治 「答案落第」
・・・また、将来大マラソン家になろうという野心も無く、どうせ田舎の駈けっくらで、タイムも何も問題にならん事は、よく知っているでしょうし、家へ帰っても、その家族の者たちに手柄話などする気もなく、かえってお父さんに叱られはせぬかと心配して、けれども、・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・たとえばド・ヴァレーズ伯爵がけしからぬ犯行の現場から下着のままで街頭に飛び出し、おりから通りかかったマラソン競走の中に紛れ込み、店先の値段札を胸におっつけて選手の番号に擬するような、卑猥であくどい茶番はヤンキー王国の顧客にはぜひとも必要なも・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・大将「これはなアフガニスタンでマラソン競争をやってとったのじゃ。」特務曹長「なるほど次はどれでありますか。」大将「もう二つしかないぞ。」特務曹長「もう二つで丁度いいようであります。」大将「何が。」特務曹長(烈「そうで・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・おれは地獄行きのマラソンをやったのだ。うう、切ない。」といいながらとうとう焦げて死んでしまいました。 * なるほどそうしてみると三人とも地獄行きのマラソン競争をしていたのです。・・・ 宮沢賢治 「蜘蛛となめくじと狸」
出典:青空文庫