・・・しかし、之はマーク・トゥエーンの言葉である。 マーク・トゥエーンという作家は私の読んだ限りでは大した作家ではない。まだしもオー・ヘンリーやカミの方が才能があるが、しかし、オー・ヘンリーやカミといえども二流、三流である。私はうぬぼれかも知・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・で寝ている父親に代って柳吉が切り廻している商売というのが、理髪店向きの石鹸、クリーム、チック、ポマード、美顔水、ふけとりなどの卸問屋であると聞いて、散髪屋へ顔を剃りに行っても、其店で使っている化粧品のマークに気をつけるようになった。ある日、・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・そこへ内務省と大きく白ペンキでマークしたトラックが一台道を塞いで止まってその上に一杯に積んだ岩塊を三、四人の人夫が下ろしていた。それがすむまでわれわれの車は待たなければならないので車から下りて煙草を吸いつけながらその辺に転がっている岩塊を検・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・ デパートのマークを付けたために問題になった絵が、洋画部でなかったことも偶然なようで自然である。あれはともかくも弁護の余地のない全く広告びら向きの絵のように思われた。広告びらの版画でも絵がよければ芸術であり、アメリカ人が高い金を出して買・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・円形の要素としては蓄音機の円盤、工場の煙突や軒に現われるレコードのマーク。工場の入り口にある出勤登録器のダイアル。それから昼顔の花もかすかにこれに反映するものである。直線運動としては囚徒や職工の行列、工作台上の滑走台、ジュアンヌの机の前の壁・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ このおもしろい研究の結果を聞かされたときに、ふと妙な空想が天の一方から舞い下って手帳のページにマークをつけた。それを翻訳すると次のようなことになる。 時間の長さの相対的なものであることは古典的力学でも明白なことである。それを測る単・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・長野は、赤い組長マークのついた菜葉服の上被を、そばの朝顔のからんだ垣にひっかけて、靴ばきのままだが、この家の主人である深水は、あたらしいゆあがりをきて、あぐらをかいている。「その顔つきじゃ、あかんな」 チャップリンひげをうごかして長・・・ 徳永直 「白い道」
・・・いいや、行くように云われて来たんだ、さあ通してお呉れ、いいや僕たちこそ大循環なんだ、よくマークを見てごらん、大循環と云われると大抵誰でも一寸顔いろを和らげてマークをよく見るねえ、はじめから、ああ大循環だ通してやれなんて云うものもそれぁあるよ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・と書いた蜘蛛文字のマークをつけていましたしなめくじはいつも銀いろのゴムの靴をはいていました。又狸は少しこわれてはいましたが運動シャッポをかぶっていました。 けれどもとにかく三人とも死にました。 蜘蛛は蜘蛛暦三千八百年の五月に没くなり・・・ 宮沢賢治 「蜘蛛となめくじと狸」
・・・大戦後の混乱は有名なマークの暴落をひきおこし、一方にすさまじい成りあがりを生み出しながら、中産階級は没落して、エリカ・マンさえ靴のない春から秋までをすごさねばならぬ状態におちいった。絶望し、分別を失ったドイツの民衆は、それがなんであろうと目・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
出典:青空文庫