・・・ もう十年にもなるだろうか、チェリーという煙草が十銭で買えた頃、テンセンという言葉が流行して、十銭寿司、十銭ランチ、十銭マーケット、十銭博奕、十銭漫才、活動小屋も割引時間は十銭で、ニュース館も十銭均一、十銭で買え、十銭で食べ十銭で見られ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ 昨年の暮、でしたかしら、奥さまが十年振りとかで、ご主人のお友達の笹島先生に、マーケットでお逢いしたとかで、うちへご案内していらしたのが、運のつきでした。 笹島先生は、ここのご主人と同様の四十歳前後のお方で、やはりここのご主人の勤め・・・ 太宰治 「饗応夫人」
・・・ 駅の附近のマーケットから食料品をどっさり仕入れ、昼すこし過ぎ、汽車に乗る。急行列車は案外にすいていて、鶴は楽に座席に腰かけられた。 汽車は走る。鶴は、ふと、詩を作ってみたいと思った。無趣味な鶴にとって、それは奇怪といってもよいほど・・・ 太宰治 「犯人」
本郷の名物は、いろいろある。たべるものにも、見るものにも。このごろ三丁目のところにマーケット風な店をひろげている小間物店「かねやす」は江戸時代の川柳に「本郷もかねやすまでは江戸のうち」とよまれている。「赤門」も本郷名物・・・ 宮本百合子 「本郷の名物」
・・・その点で、一部の読者が彼の作品を判読したのであるし、マーケット・プライスが保たれたのであった。「厨房日記」は嘗て高邁を称えた作家にふさわしい何物かを芸術としてのこしているのであろうか。「虚心坦懐とは日本でこそ最も高貴な精神とされているが・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫