・・・「メチルでしょう?」 と、きくと、そうだとその人は笑って、「相変らず安ウイスキーを飲み廻ってるんですね。眼からヤニが流れ出して来ても、平気でヤニをこすりこすり、飲んでるんですね。あの人だから、もってるんですよ。無茶ですね」 ・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・と言いながら机の上の茶呑茶碗にウイスキイを注ぎ、「昔なら三流品なんだけど、でも、メチルではないから」 彼はぐっと一息に飲みほし、それからちょっちょっと舌打ちをして、「まむし焼酎に似ている」と言った。 私はさらにまた注いでやりなが・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・れいの、あの、メチルかも知れないしねえ。しかし、僕は、あの漁師たちの、一点疑うところ無き実に誇らしげな表情を見て、たまらなくなり、死を決した。うむ、死を決した。この愚かで無邪気な、そうして哀しい漁師たちと一緒に死のうと覚悟した。僕は飲んだよ・・・ 太宰治 「春の枯葉」
出典:青空文庫