・・・――病院の下の木造家屋の中から、休職大佐の娘の腕をとって、五体の大きいメリケン兵が、扉を押しのけて歩きだした。十六歳になったばかりの娘は、せいも、身体のはゞも、メリケン兵の半分くらいしかなかった。太い、しっかりした腕に、娘はぶら下って、ちょ・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・何しろ横浜のメリケン波戸場の事だから、些か恰好の異った人間たちが、沢山、気取ってブラついていた。私はその時、私がどんな階級に属しているか、民平――これは私の仇名なんだが――それは失礼じゃないか、などと云うことはすっかり忘れて歩いていた。・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・(あいつは、二つのメリケン袋の中に足を突っ込んでいた。輪になった帯の間から根性に似合わない優しい顔が眠っていた。何を考えているんだか、あの眼の光は俺には解らなかった。旦那衆のように冷たくは光らなかった。憤って許りいるような光でもなかった・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・なさけない、メリケン国のエジソンさまもこのあさましい世界をお見すてなされたか。オンオンオンオン、ゴゴンゴーゴーゴゴンゴー」 風はますます吹きつのり、西の空が変に白くぼんやりなって、どうもあやしいと思っているうちに、チラチラチラチラとうと・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
出典:青空文庫