・・・要するにこの四拍子の、およそ考え得らるべき最も簡単なメロディーがこの糸車という「楽器」によって奏せられるのである。そのメロディーは実に昔の日本の婦人の理想とされた限りなき忍従の徳を賛美する歌を歌っていたようなものかもしれない。 右手と左・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・ 画面と音響との対位法的な律動的構成の試みが「世界のメロディー」の中に用いられていた。ピアノの鍵盤とピアノの音とが、銅鑼のクローズアップとその音とに交互にカットバックされるところなどあったように記憶する。この映画は全体としてはむしろ失敗・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・例えばファゴットの管の上端の楕円形が大きく写ると同時にこの木管楽器のメロディーが忽然として他の音の波の上に抜け出て響いて来るのである。こういうことは作曲者かあるいは指揮者を同伴して演奏会へ行っても容易に得られない無言の解説である。カルメンの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・の歌のメロディーとどこか似たメロディーがところどころに編み込まれている。その両方に共通なものがおそらく「パリの巷の声」であろう。 フランス語がわからなくて残念であるが、考えようによっては、それがわからないために、それのわかる人にはわから・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・そうして自由に放恣な太古のままの秋草の荒野の代わりに、一々土地台帳の区画に縛られた水稲、黍、甘藷、桑などの田畑が、単調で眠たい田園行進曲のメロディーを奏しながら、客車の窓前を走って行くのである。何々イズムと名のついたおおかたの単調な思想のメ・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・その中からシャリアピンの悲しくも美しいバスのメロディーが溢れ出るのであった。 歴史に名を止めたような、えらい武人や学者のどれだけのパーセントが一種のドンキホーテでなかったか。現在眼前に栄えているえらい人達のうちにも、もしかしたら立派なド・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・のであろうか。 銀座の楽器店の軒ばにつるした拡声器が「島の娘」のメロディーを放散していると、いつのまにか十人十五人の集団がその下に円陣を作るのも、あながち心理的ばかりではなくて、なにかわれわれのまだ知らない生理的な因子がはたらいているの・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・その前に据えた机の上にのせたポータブルの蓄音機から何かは知らないが童謡らしいメロディーが陽気に流れ出している。若い婦人で小学校の先生らしいのが両腕でものを抱えるような恰好をして拍子をとっている。まだ幼稚園へも行かれないような幼児が多いが、み・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・ ハース氏夫妻と話していると近くの時計台の鐘がおもしろいメロディーを打つ。あれはロンドンの議事堂の時計を模しているのだとハース氏がいう。西欧の寺院の鐘声というものに関するあらゆる連想が雑然と頭の中に群がって来た。 きのうの夕食に出た・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・これよりもう少し進歩したものになると互いに音程のちがった若干種類の音が使われるようになって、そこにいわゆるメロディーが生まれる。二種の高さの音をそれぞれに取り離して全く別々に聞くだけならば、振動数がかなりちがってもたいしてちがった感じの違い・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫