・・・ 中にも、こども服のノーテイ少女、モダン仕立ノーテイ少年の、跋扈跳梁は夥多しい。…… おなじ少年が、しばらくの間に、一度は膝を跨ぎ、一度は脇腹を小突き、三度目には腰を蹴つけた。目まぐろしく湯呑所へ通ったのである。 一樹が、あの、・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・粋にもモダンにも向く肉感的な女であった。二 早くから両親を失い家をなくしてしまった私は、親戚の家を居候して歩いたり下宿やアパートを転々と変えたりして来たためか、天涯孤独の身が放浪に馴染み易く、毎夜の大阪の盛り場歩きもふと放浪・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ また信仰をモダンとか、シイクとかいうような生活様式の趣味や、型と矛盾するように思ったり、職業上や生活上の戦いの繊鋭、果敢というようなものと相いれないように考えたりするのも間違いである。信仰というものはそんな狭い、融通のきかないものでは・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・売店で、かず枝はモダン日本の探偵小説特輯号を買い、嘉七は、ウイスキイの小瓶を買った。新潟行、十時半の汽車に乗りこんだ。 向い合って席に落ちついてから、ふたりはかすかに笑った。「ね、あたし、こんな恰好をして、おばさん変に思わないかしら・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・とみも、都会のモダンガールみたいに、へんな言葉づかいの手紙を書く、ということが、異様にもの珍らしく、なかなか笑いがとまらなかった。けれども、ふっと、厳粛になってしまった。与えられることは、かたく拒否できても、ものをたのまれて決していやと言え・・・ 太宰治 「花燭」
・・・けさ私は、岩風呂でないほうの、洋式のモダン風呂のほうへ顔を洗いに行って、脱衣場の窓からひょいと、外を見るとすぐ鼻の先に宿屋の大きい土蔵があってその戸口が開け放されているので薄暗い土蔵の奥まで見えるのですが、土蔵の窓から桐の葉の青い影がはいっ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ちかいうちには、モダン型の紙幣が出て、私たち旧式の紙幣は皆焼かれてしまうのだとかいう噂も聞きましたが、もうこんな、生きているのだか、死んでいるのだかわからないような気持でいるよりは、いっそさっぱり焼かれてしまって昇天しとうございます。焼かれ・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・売り手のよごれた苦いじいさんは、洋服姿のモダンボーイに変わっている。しかし団扇の使い方に見られたあの入神の妙技はもう見られない。獅子はバタバタとチャールストンを踊るだけである。なるほどこのほうがほがらかで現代的で見るのに骨が折れない。一目見・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・当時彼の読みかけていたウェルズのモダンユートピアに出てくるいわゆる「サムライ」はこういうスポーツには手をつけないことになっているが、それはこの著者のユートピアにおける銀座新宿の平和の乱されるのを恐れたためかもしれないと思われた。 こ・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・スースーとモダン風な大股の歩きつきで。それに対する反感。 十一月初旬の或日やや Fatal な日のこと。梅月でしる粉をたべ。 午後久しぶりでひる風呂、誰もいず。髪をあらう、そのなめらかな手ざわ・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
出典:青空文庫