・・・私はことの意外に驚いて、この学校は自由をモットーとしているのに、生徒の頭の型まで束縛して、一定の型にはめてしまおうとするのであるかと、早口で言った。すると自治委員の言うのには、寮では寮生のすべては丸刈りたるべしという規則がある。郷に入れば郷・・・ 織田作之助 「髪」
・・・というのではない。まして勉強の余暇に恋愛をたのしめというような卑俗な意味ではない。恋愛には恋愛のモラルと法則とがある。その意味では「学校を落第してまでは恋愛をせぬ」というモットーは理想主義のものでなくして、散文主義のものである。イデアリスト・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・このモットーを青年時代から胸間に掲げていなくてはならぬ。 けれどもいうまでもなく個人がすべてを実地に体験し得るものでもなく、前にいった人間共生と共働の原理により、他人の体験と研究の遺産と寄与とを受けて、自らを富ますことは賢明であり、必要・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ これが私の最初のモットーであり、最後のモットーです。 さようなら。またおひまの折には、おたよりを下さい。しかし、妙な縁でしたね。お大事に。敬具。 太宰治 「返事」
・・・これが同君のモットーであった。この言葉の中には欧米学界の優越に対する正当なる認識と尊敬を含むと同時に、我国における独創的の研究の鼓吹、小成に安んぜんとする恐れのある少壮学者への警告を含んでいたのである。「どうも日本人はだめだ」と口癖のように・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・どんな行きつまった世の中でもオリジナルなアイディアさえあればいくらでも金儲けの道はあるというのが現代のヤンキー商人のモットーであるが、この事を元禄の昔に西鶴が道破しているのである。木綿をきり売りの手拭を下谷の天神で売出した男の話は神宮外苑の・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・とかいうようないろいろなモットーも皆一つのことのいろいろな面を言い現わす言葉のように思われて来るのである。 短歌もやはり日本人の短詩である以上その中には俳句におけるごとき自然と人間の有機的結合から生じた象徴的な諷詠の要素を多分に含んだも・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・階級性ぬきのものとしようとしてついに能動精神というモットーにおち、もう一段の悪情勢で、日本の文学がほとんどまったく侵略戦争のローラーにひしがれたということを、悲傷をもって経験している。プロレタリア文学の運動がはじまったころ、文学の純粋性を固・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・今度社会正義に基くことをモットーとする近衛内閣によって、従来の「蚊文士」が「殿上人」となることとなった。「かかる官府の豹変は平安盛時への復帰とも解釈されるし、また政府の思想的一角が今日、俄かに欧化した」とも云い得るかのようであるが、実際には・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
出典:青空文庫