・・・この道徳的意識に根ざした、リアリスティックな小説や戯曲、――現代は其処に、恐らくは其処にのみ、彼等の代弁者を見出したのである。彼が忽ち盛名を負ったのは、当然の事だと云わなければならぬ。 彼は第一高等学校に在学中、「笑へるイブセン」と云う・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・カメラのつかいかたを、実着にリアリスティックに一定していて、雰囲気の描写でもカメラの飛躍で捕えようとせず、描くべきものをつくってカメラをそれに向わせている態度である。こういう点も、私の素人目に安心が出来るし、将来大きい作品をつくって行く可能・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・けれども、婦人が自身の性の本然と勤労の必要との間で板挾みにあっている今日の苦しさは、女という性によって働き仲間である男さえ大部分の者はまだ彼女たちを補助的なものとして見るのに、企業はきわめてリアリスティックにやすくて従順な労働力としての点か・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ わたしたちのきょうの生活をリアリスティックに見つめれば、人民の殆んどすべてが日向と日かげの境で暮している。わるいことといいこととのまだらを身につけて生きざるを得ない状態である。今日の生活としてだれしもやむを得ないことは、その程度のちが・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・は、少女の書いたものらしく、ロマンティックな色彩と子供っぽい社会観をもっていても、日本の農村の或る生活を、リアリスティックな筆致で描き出したところに特色があった。若い作者のおどろきに見はられた眼と心とを通じて、そこに描かれている穢いものまで・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
・・・女時代の労働のために健康を失ったこの作者が、妻、母として、党員として東北の小さい町に負担の多い生活とたたかいながら一つ一つ作品を重ねて来ているうちに、次第に爆発的な悲憤と反抗とが、階級的な作家としてのリアリスティックな能力に高められつつある・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・からの脱却、伝統的な主情性の克服の可能も、文学が人民のリアリスティックな発展の可能性とそのための多種多様な行為とともにあってはじめて見出されるのである、と。この場合、国際的なプロレタリア文学運動が、二十世紀の世界文学の一発展としてもたらした・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ 検事局の係検事は、先ず自分が一人の住民として朝夕その身を痛めている交通地獄の有様をリアリスティックに思いおこすべきであった。自分も今日に生きるただの一市民として、良人であり父親である自分の幸多しとはいいようのない日常の思いを、噛みなお・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・日本の社会の雰囲気には、破滅のうちに生きていながらその破滅を意識の正面にうけとってゆくリアリスティックな凜冽さが足りない。そして、それは昨今ますますぼやかす方向にみちびかれている。破滅的現象は街にも家庭にもあふれ出ているのに、若い眼も心も崩・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・それを冷静に見ている、作家か何かが冷酷な気持でリアリスティックな気持で見ていれば、その段階がわかるでしょうけれど。――もがき始めたので、はっとなって、とりのぼせたというのならわかるけれども、だんだん黒くなったと見ているのはどうもあまり沈着な・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
出典:青空文庫