・・・感性のことはやはり究極は見かたの問題だし、人を動かす作品の力がただ写実では足りなく、ロマンチックな要素がいるというAさんの見解もロマンチックというだけではずっているし、時間があったら一寸した作家としての経験を土台としてこのことをも書いて見た・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ファブルなどの時代では、文学に於ても十分問題である擬人法のロマンチックな色彩の横溢が、文学的であるとして考えられていたらしい。冷たい、理知だけの操作でない、対象との人間らしい共感においての観察という点の強調が、虫に頬かぶりをさせたり、草叢の・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ これらの言葉は、混り気ないローザの心の虹であり、私の感情に非難を呼びおこすどころか、寧ろこの偉大な活動家であったローザのロマンチックな熱情を、可憐なようにさえ感じた。 私は、一人の平凡な婦人である自分がローザの心持をやさしく眺めて・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・ これまでの文学で、下級海員の生活を描いたものは、階級的な立場からあつかわれたものでも、とかく海の人間の心持の荒けずりでロマンチックな面だけを色濃く出そうとするような傾向があり、誇張があった。この作品は報告文学であるが、気持のそういう方・・・ 宮本百合子 「「第三新生丸」後日譚について」
・・・「性と子供の心配が行く手を遮った。」愈々アーネストと結婚登録した時、アグネスは「性を伴わない結婚」「ロマンチックな友愛」を考えていたのであった。 実際の結婚、姙娠、子供を産み食物と着物とを良人にたよってそのために永劫命令されて生きなけれ・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・彼女は日本で極く短い期間にロマンチックな形で現れたインテリゲンツィアの婦人解放運動と前後して作家活動をはじめ、前の時代の自然主義の婦人作家が示さなかった女の自我の問題を恋愛の経緯の中に芸術化した。田村氏はそのことを極く自然発生的にやった。彼・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
・・・ブランデスは既に彼の卓越した十九世紀文学の研究において、当時のロマンチスト達が、自然を謳歌したことは事実であったが、「彼等の愛する自然はロマンチックな自然であった」ことを洞察している。彼等が「没趣味なもの、俗悪なもの、平俗なものとして斥けた・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・嘗て、或る知名な女流歌人が右のような行為に出た時、都下の或る大新聞は、文化の最高指導者たるべき紙面を、全部その報告、ドキドキさせるようなロマンチック・センセーションで埋めまでした。寧ろ、悲惨な心持がせずにはいない。それほど、皆が心を動顛させ・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・ 日清戦争後に起った自然主義の移入は、過去の因習に反逆すると同時にこのロマンチックな人間性への憧憬をも蹴破った。人間生活の暗い半面、神性に対する獣としての人間が描かれはじめたのであったが、自然主義も日本の特殊な社会的・文化的地盤へ落ちて・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・本間さんのところにいつしかもうそんなに大きい娘さんがたがおられるということ、私の少女時代に暗いロマンチックな作品をよんだことのある小川未明さんが今日では二十三歳になる若い女のかたの父親であられること。それらは、私に明治時代から今日までの社会・・・ 宮本百合子 「短い感想」
出典:青空文庫