・・・大きい黒い目をした身よりのないカストローマ。十二歳の力持ちのハーヒ。墓地の番人で癲癇持ちのヤージ。一番年かさなのは後家で酒飲みの裁縫女の息子グリーシュカ。これは分別の深い正しい人間で、熱情的な拳闘家である。 後年、ゴーリキイは当時を回想・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ ギリシア人は。ローマ人は。そして、今漸々戦慄すべき大殺戮の武具を納めた数多の国々は――。 私共は皆、人を殺しながら、神を呼ばずには居られないのだ。神を――偉大な調和と、解放とを求めながら、縊り合わずには居られないのだ。 そうは・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・ 自我の享楽のためにローマの古いいくたの歴史の生れた市を火にしてその□(に薪木からのぼる焔に巨大な頭をかがやかせ高楼の上に黄金の□□□□(の絃をかきならして大悲劇詩人の形をまねて焔の鬨の声とあわれな市民の叫喚の声とをききながら歌うネロの・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・茉莉や杏奴という日本語として字の伝統的感覚においても美しくしかもそのままローマ綴にしたとき、やはり世界の男が、この日本名の姓を彼らの感情に立って識別できるように扱われているところにも、私は鴎外の内部に融合していた西と東との文化的精髄の豊饒さ・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・祖国ギリシャの敗戦のとき、シラクサの城壁に迫るローマの大艦隊を、錨で釣り上げ投げつける起重機や、敵船体を焼きつける鏡の発明に夢中になったアルキメデスの姿を梶はその青年栖方の姿に似せて空想した。「それにはまた、物凄い青年が出てきたものだな・・・ 横光利一 「微笑」
・・・もしそれが、ローマを襲ったキリスト教のように、単にただ純然たる宗教であったならば、あれほど激烈にわが国の文化全体を動かし得たかどうかは疑わしい。我らの祖先は当時なお、一つの偉大な宗教をただ宗教として、あるいは一つの偉大な思想をただ思想として・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・その点においてはエジプトのピラミッドもローマのコロセウムも大阪城に及ばない(。しかもそういう巨大な人力をあの城壁に結晶させた豊太閤は、現代に至るまで三百余年間、京都大阪の市民から「偉い奴」であるとして讃美され続けて来たのである。そうしてこの・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫